飃の啼く…第14章-4
「だから…こんなことも覚えているのさ、飃…君が檮杌を殺したとき…そんなもんじゃなかっただろう?」
良い方の足で地面を蹴って切りかかる飃を、蜘蛛の糸が捕らえる。
「!?」
動きを封じられた飃は、蚩のしたように気を集めてそれをぶつけようとする。
だが…
「知ってるだろ…我々が習った破魔法は間人間には効かない。それより飃…見せてみろ…」
蚩は、飃のもとへ一歩ずつ近づいていく。
「よせ…お前は解ってない…」
飃の声には、はっきりと恐怖が表れていた。
「ならば教えてくれ、飃。」
そして、飃の髪に手を伸ばした。
「君も死ぬぞ…巌!」
飃の声に答えた蚩の声は小さく、まるで彼自身が買っていた羽虫の羽音のように聞こえた。
「教えてくれ…君にとって、私がなんだったのか…愛されることも叶わず、友にも成りきれなかった…君が憎む、ほかの過去と一緒に一緒にしまわれておくくらいなら…私は…」
そして、飃の封印を、解いた。
聞いたこともない恐ろしい獣の咆哮は、私の体中の細胞を恐怖で満たし、震えさせた。森に住む動物たちは、この咆哮を耳にしただけで息絶えただろう。
「はははは!そうだ!もっと本気を出してみろ!」
飃の髪の毛は、電気を帯びたように逆立ち…なんてこと…あの蜘蛛の糸を、いとも簡単に引きちぎって…しまった…
「獣の血を取り戻せ!!もっと私を憎み、そして……!」
そう。その後に、確かに彼の唇の動きはこう言っていた。
「殺してくれ」と。
ふるるるる…と、飃が、いや、さっきまで飃だった獣が唸る。
飃…あれが飃の中の「あなじ」…
背中は飛び掛る構えのまま丸まっている。顔は、食いちぎる肉を求めて大きく開いた口に歪み、爪は、掠っただけでそのものを切り裂いてしまうほど鋭く伸びていた。