飃の啼く…第14章-3
「隠し事は出来ないな…そう。正確には『我々自身』の問題だ。」
「飃…」
私の声に、彼は一度だけ振り向いて私の目を見た。助けようか、このまま戦おうか…。その目には迷いが浮かんでいた。
私は、うなずいた。
平気よ、行って。
「…いいだろう。己は、君の事を友だと思っていたが、どうやら君にとっては違ったのだな、巌…いや、今は蚩(チー)。我が妻を傷つけた時点で…君は己の敵だ。」
飃は七星を構えた。そして、北斗を置いた。
「いい覚悟だ。私も君との戦いに、こんな雑魚は使わない。」
そう言って、体中にくくりつけた瓶を、中の虫ごと叩き割る。けたたましい音と共に、すべての毒虫と、伝令虫が消えた。
「飃…お前の倒した檮杌(タオチュー)の残りを、私も探した。そして見つけ、倒した。その日から、次は君を、と心に決めていたのだよ。そうすれば、私は君を超えられる。」
彼は、腰を落として手で複雑な印字を組んだ。大気中の気が、蚩の手に集結する。大きな一撃が、彼の手から迸った。飃はそれを身軽によける。
「ふん!己を超えるだと?」
飃は、蚩の一撃を次々と交わしながら近づいてゆく。
「解らんな、そもそも何故己を超えたい?」
振り下ろした七星を、蚩の手が受け止める。
「な…!」
蚩の手は、光り輝く気に守られていて、傷つけることも叶わなかった。飃はすばやく飛び退る。
「何故超えたいかだと?覚えていないのか、君が私に味合わせた屈辱を…」
蚩の手が地面をかすると、ものすごい気が刀のように、飃の立つ地面を裂いて噴出した。
「…拭い去るためさ!」
「飃っ!!」
北斗が間に合わなくて、攻撃をもろに食らった飃が、よろめく。
「屈辱…。」
はははは…と、嬉しそうに蚩が笑う。
「思い出したか?飃?君の記憶力もまんざらではないようだ…私のには劣るがな!」
そしてまた一撃。よけ損ねた飃が、今度は右足にダメージを受ける。
私は、この忌々しい蜘蛛の糸からどうにか開放されたくて、あがく。
飃が…飃が!!