特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 後編-9
「都子ちゃん! ただ今の得点 ”9.95”!」
などとほざいていた。
そんな騒ぎに病院内は。一瞬の静寂の後、(おおー!)と外来の患者さん、通りすがりの見舞い客、インテリっぽい医者の先生、そして看護士さんや、受付の事務員さん、見ていた全ての人達が総立ちで、拍手を喝采したりもする。
『おおー凄いぞー!』
『ブラボー!』
『きゃーすてきー!』
『わしがもう50歳若ければ、口説くんじゃがのう……』
そんな歓声を浴びながら、都子はカウンターの上で、少しひざを曲げながら可愛らしくお辞儀をして。
「あっどうも、どうも……」
照れながら愛想を振り撒いていた。……が。
「ちょっと貴方達! 病院内は静かに!!」
突然響き渡る野太い声(良く言うと、ハスキーってやつ)の、怒鳴り声。その場に居合わせた全員が、一瞬にして ”シーン”と静まり返ったかと思うと、すでに他人の振りを決め込んで居る者もいる。見ていた医師達もそそくさっと逃げ仰せて、あっと言う間にロビーから人の気配が無くなっていた。
声はどうやらこの病院の看護士長さんのようである。その威風どうどうとした貫禄のある鋭い眼差しが、カウンターの上で呆けている都子を、ようしゃなく睨みつけ。
都子はばつが悪そうに「へっ?」、なんて言いながら頭を掻くばかりである。
怖い顔をした、太ったおばさん……
「うぉっほん!」
失礼しました!! ……えーと、か、看護士長さんは、都子に向って「オホン!」と咳払いをしながら、立てた親指を、床に向かって何度か、振ってみせる。つまりはそこから(降りろ!)と言うサインであろう。
都子は慌ててケウンターの上から飛び降りると。
「……ごめんなさぃ」
小さく呟いていた。
それを聞いて婦長さん、(まあいいでしょう)と言った風な表情をうかべると、ポーカーフェイスを決めたまま、仕事に戻って行った。
都子はなにげに、額に吹き出た冷や汗を手でぬぐい、
「たすかったぁ」
と安堵の溜息をついていた。
「田原く〜ん! しっかりして田原く〜ん!!」
都子は倒れっぱなしだった嘉幸を抱き起こすと、彼のほっぺたを軽くペシペシ叩きながら、揺さぶった。
「お疲れ様ぁ田原く〜ん。病院……着いたよ」
「あっああ。……とうとう来たんだなぁ ……俺たち」
気が付いた嘉幸は都子に支えられながら、半身を起こし、これまでの苦労を振り返り、噛み締めるが如く、院内を見渡す。
するとフロアーの先の廊下の方から。
「嘉幸お兄ちゃん! こっちこっちーーぃ!!」
と、先に救急車で到着していた清美が手招きしているではないか。
「嘉幸お兄ちゃん早く早くぅ! もう時間がないよ!!」
しかも何気に焦っている様子。
そんな彼女を見て嘉幸も。
「そうか!」
急ぎ立ち上がり、清美の側へと駆け寄って行き。
「どうだ! 赤ちゃん生まれたか?!」
そう清美に尋ねていた。
清美は首を横に振りながら。
「まだだよ。でももう直だよ……きっと」
そう言って笑顔をみせるのだった。
嘉幸はこうしちゃ居られないと、足早に病院の廊下を、産婦人科病棟の方へと向った。清美と都子も嘉幸の後を追うように走って行った。
広い病院の廊下の角を幾つか曲がると、その先に産婦人科病棟があり、診察に訪れた何人かの妊婦さんたちが、廊下を歩いている姿も見える。
その廊下を早歩きで歩いていると、ふと都子が立ち止まって、
「あたし! ちょっと……お手洗い行って来る」
と言い出す。
少し緊張して、もようしたのだろうか。嘉幸は、
「じゃあ先に行ってるぞ」
と都子に声をかけ、先を急いだ。