特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 後編-2
「もしかして急な用事って…… 朝霞さん、学校へ行ってた?」
嘉幸は是奈の制服姿に、不とそんな事を漏らして言う。
すると是奈。
「ちょっと聞いてよ田原くーん! 中村さんったら酷いのよ、文化祭の演劇で使う舞台背景の絵を書くの手伝ってくれ、なんて人を呼び出しておいて、自分は朝寝坊して遅刻してくるし…… ……そんな事より佐藤さん! どうかしたの?!」
堰を切ったように喋り出し、なにやら溜まっていた愚痴を零しはじめた是奈ではあったが、嘉幸におんぶされ、なんだか力なくぐったりしている都子に気が付くと、急に言葉を詰まらせもする。
嘉幸は少々気まずいと言った感じか、片手でホッペタをポリポリっと掻きながら、
「あ、いや、そのう385…… じゃぁなかった佐藤さんがその…… 食中り(しょくあたり)って言うか、毒キノコにやられたらしくて…… それで病院に連れて行こうと思ってさ」
懸命に、と言うかあまり都子のことを疑われない様にと言うか、兎に角、言葉を選んで説明はするものの。
是奈は是奈で、今日のバーベキューの参加者に『佐藤 都子』が居る事は知っていたが、まさか自分が居ない間に彼女がこんな良い思いをしているとは思わず、湧き上がる嫉妬を抑えられなくもあった。話半分、別の意味で都子が気になってしょうがなかったりもする。
それが原因なのか。
「ふーん…… 佐藤さんでも食中毒なんかに成る事って、あるんだぁ」
嫌味ったらしい口調でもって言いながら、”クククッ”っと微笑したりもする。
するとそれを聞いた途端、都子が嘉幸の背中で暴れだした。
「ああー! 今笑ったなあーー!!」
「だって可笑しいんだもん。大食いしか取得のない佐藤さんが食中毒ですってぇ。前代見もんだわぁ」
完全にバカにした口調でもって言いながら、口に手を当て少し腰を曲げて、横目でチラチラと都子を見ながらケラケラ笑う是奈。
「きぃいーーーー!」
こうなると都子もおもしろくない。今にも是奈に飛び掛りそうな勢いでもって、両腕を振り回したりする。
「385! ……じゃぁなかった佐藤さん! 頼むから大人しくしていてくれ! 朝霞さんも、あんまり挑発しないでくれよ」
背中で都子に暴れられ、嘉幸もよろけながらに是奈を諭すが。
「だって、やっぱ可笑しいじぇない。くふふぅ」
是奈は笑うのを止めない。
そんな是奈を見て都子は何を思ったのか。
「ふんだ! 笑いたければ笑え! いいもん、そんなの気にしないもん!」
そう言うと嘉幸の背中に自身の横顔をこすり付けながら。
「あたしは、こうして田原くんにおんぶしてもらってるだけで、嬉しいもんね〜。田原くんもあーんな馬鹿力だけしか脳のない女なんて、興味ありませんだってさっ」
そんな事を言い出しし。さらには幸せそうな顔をして、嘉幸の背中をスリスリしながら、是奈に向かって、アッカンベーをして見せたりもする。
そうなるとおもしろく無いのは、今度は是奈の方である。
「なによそれ! 当て付けてるつもりいー!!」
是奈もヘラヘラしている場合じゃないわ! と、一変して凄んだ形相でもって、都子を睨みつけると。
「なによあんた! 元気有るじゃない! それなら一人で歩けるでしょ!!」
そう言いながら都子の脚を鷲づかみにして。
「ちょっとあんた! 田原くんから降りなさいよ!!」
と、無理やりにもグイグイと、嘉幸の背中から都子を引き摺り下ろすべく引っ張っていた。
「まあまあ朝霞さん! こんなやつの言う事なんか気にしないで!!」
嘉幸は気まずいムードを和らげようと、言葉少なに詫びながら、よろけながらにも是奈の引っ張りに抵抗はしたが。
「田原く〜ん、こんなへちゃむくれほっといて早く行こうよ。……ああ〜田原くんの背中って、あったか〜い」
そんな事を都子が言い出すものだから。
「ぬわんですってーー!」
是奈も切れずには居られない。
「てめー! 離れろって言ってるだろ! この色ボケ変態女!!」
吼えながら、今度は都子の腰を両腕でクワガタのようにして挟み込み、目一杯の力でもって引き剥がしに入ったのだった。
そんな是奈に対して都子も黙っちゃいない。