数学はきっかけ〜前編〜-1
「おい!裕也!お前なぁ、また俺に後始末させたやろ?!アホ!こっちの身にもなれ!このスットコドッコイ!」
「スットコドッコイはないだろ…」「スットコドッコイにスットコドッコイ言って何が悪いねん!」
大学への通学路で2人の男が言い合い(一方的だが)をしている。
「女も女や!甘い顔に騙されとるの気付や!アホ!」
さっきからアホとスットコドッコイを連呼している、こてこて大阪弁の男、関口誠《せきぐちまこと》。
身長185?、スタイル、顔共に普通
(ほっとけや!)
じゃあ、笑顔が似合う男
(じゃあ、は余計や!俺の笑顔は最高やで)
その隣には身長178?、スタイルはスラッとしていて痩せすぎず太りすぎずイイ体型、顔は10人中10人の女がイイ男というほどのハンサム顔の小野裕也
(ちょー待てや!俺ん時とえらい差ないか?!こいつは眉間にいつもシワを寄せとる恐い顔や!)
「裕也!ちゃんと女と付き合え!」
そう怒鳴って相手を見下ろす。
「ちゃんと付き合ってるつもりだ」
相手が怒っていても知らぬ顔で答えた。
「じゃあ何で裕也と付き合うた女は口揃えて『あの人の目には私はうつってない』って言うんや?!」
「知るかそんなこと。」
本当にそう言われる覚えはナイ。
相手の望むことはほとんど叶えているつもりだ。ほとんど…
『もっと触れて…』
(だからお前が濡れるくらい愛撫してやってるじゃないか)
『私だけを見て…』
(だからお前しか抱いてないじゃないか)
『ねぇ…小野君…もっと愛して…』
(だからお前の望みを叶えてやってるじゃないか)
女は一度抱くとあれもこれもと言ってくる。
俺の時間を自分のものにしようとする、俺の気持ちを自分のものにしようとする。
俺は俺で、お前はお前なのに。
どうして相手のすべてを欲しがるんだ?
欝陶しい…。
「えーかげんにせぇ!もぉええやろ?はよあのことは忘れろや…」
夏の陽射しが二人を照らし、誠は暑さのためか眉間に少しシワをよせ語尾を濁らせた。
「……」
―ザワザワ
「何やこの道は遊び人の人口密度が高いな…」
げんなりした様子で誠は目線を話題の人物に目をやる。
「…彼女!何?どしたの?大学に用事?何なら俺案内するよぉ」
見るからにしてチャライ男が女の前に立ち塞がっている。
そんな言葉は無視をし、綺麗な黒髪を揺らしズンズン大学に入っていく。
「うわぁ…あの女、チャラ男無視やで!大概、あの顔に騙されんのに!あっ、裕也のことちゃうで」
意地悪く横目で裕也を見て強調して言う。
「ねぇってば!カフェテリアは?いいよここの!」
無視をされても諦めない。モテるチャラ男は余程自信があるようだ。
だんだん誠達はその現場に近づいていた。
「うわっ!あの女、めっさ美人!見ろや!」
そういうと、裕也の腕をこついた。
確かに美人であるが裕也にとってそこらの美人とかわらないので興味なんてものは湧かなかった。
どうしても振り向いてほしいチャラ男は女の腕を掴んだ。
次の瞬間…女は大きなキリっとした深い茶色い目で相手を睨みつけた。
裕也は引き付けられるようにその女の元に…
「おぃ、ちょ、えっ?裕也?」
誠は突然の相方の行為にびっくりしてすぐには行動できなかった。
こんなことが背後で起きてるなんて知らないチャラ男は
「へぇ〜♪正面から見るとますます綺麗だね」
歯が浮くようなセリフを軽々言ってのける。
女は睨んだまま腕を振りほどこうとしたが、やはり男の力には敵わないようで、なかなか振りほどくことができない。
「俺、妖しい奴じゃないよ?ね?お茶くらいしようよぉ」
女はそんな言葉にも耳をかさずに振りほどこうとしてる。
「元気イイね〜っ。ますます気に……」
「ますます何だ?」
「っく…ぃっ…てぇ…」
いつのまにか、裕也はチャラ男の後ろに立ち、腕を捻り上げていた。
「だから、ますます何だ?口がないのかお前」
口があっても喋られない状況というものがある。
「喋れない奴には用はない。消えろ」
そう言った後、男の腕を離した。
男は腕を摩りながら足早にその場を後にした。
「すみません。ありがとうございます。」
印象的な茶色い大きな目が裕也の目とあう。
「いや、別に。今度からは気をつけろ」
(吸い込まれそうだ…。あの時と同じ…。
良くない。これ以上関わることは…。)
裕也の心のどこかでブレーキがかかる。
「…ぃ…ぉ…おいっ!裕也!」
はっと我にかえる。
「何やねん!急に!びっくりするやないか!」
走って来たのか誠の息がきれている。