数学はきっかけ〜前編〜-2
「おっ！さっきの美人な姉ちゃんやないかぁ、大丈夫かぁ？世の中あんな男ばっかちゃうからな。信じてな。」
裕也は、気さくに女に喋りかける誠を横目で複雑な表情で見ている。
「あっ！すみません！急いでるんです！助けていただいたのに…すみません。失礼します！」
それだけ言い残して、女はいなくなった。
「えっ？ちょっ！名前聞いてへんって！うわぁ〜、惜しいことしてもうた…」
誠は本当に残念そうに膝を抱えて女の後ろ姿をみつめる。
「にしても、もう1つ気になることがある。」
チラりと裕也を見た。
「何で急に走り出して、それもしかも、めんどくさがり＆遊びの女にしか興味のない＆普段人なんか助けへん小野君がなんで、どこにでもいるような女を助けたんや？」
興味津々という文字が浮かび上がっている顔で尋ねてきた。
「……あっ、授業はじまる。行くぞ。」
1人スタスタと先に行く裕也。
その後ろ姿をみて優しい笑顔で見つめている誠は、ボソっとこう漏らした。
「まぁ、何となくはわかっとるけどな。神様…どうかアイツに…。
おーいっ!置いていかんといてや裕也ちゃ〜ん！」
気持ち悪い笑顔の大きい男が小走りで後についていく。
-コンコン
「入りたまえ。」
小太りな中年男の声が答えた。
「お〜、小野君じゃないか」
ダンディーな顔立ちの男が笑顔で振り向いた。
「失礼します。海星教授、先日いわれていたものです。これ…」
そういって裕也は海星教授にレポートを手渡した。
手渡されたレポートを読み、フムフムと頷きにこやかに裕也を見上げた。
「う〜ん。実にイイ！君の数学の力はすばらしい！」
「ありがとうございます。」
「大学院には進まないのかね？」
「えぇ。早く就職したいんで。」
少し残念そうな顔で教授は裕也を見た。
「教師になるそうだね…。うん。君みたいな教師に出会えた生徒は幸運だ。黒板が回答用紙になるような授業だからな〜。頑張りたまえ！」
そう言って肩をポンポンと叩いた。
「ありがとうございます。」-ガチャン
「また、教授にナンパされとったんかぁ〜？」
食堂に行くと誠がこっちこっちと手招きをして待っていた。
「まぁな…」
「裕也はえげつないくらい数学できるからな…」
「えげつないは余計だ。それより、新作か？それ。」
裕也は誠の前に置かれているケーキを指差し言った。
「さっすが！気いついたかぁ？新作やねん。これは上出来やで！食えや！」
そういうと誠は裕也に作った新作のケーキを差し出した。
「……。うん。うまい。本当に誠の作ったのはうまい。ケーキ屋で買うのが馬鹿らしく思えてくる。」
「最高の褒め言葉や！俺、絶対将来自分の店持ったるから！楽しみにしとれやぁ」
（誠の店なら確実に黒字だな…。スポンサーになりたいくらいだ。
誠が夢を語る時の目は輝いてる…。
……俺は目に弱いな…。
気をつけなければ、また過ちを繰り返す…。
俺は、誠さえ傍にいてくれたらそれだけでいい。
何も望まない。愛だけは何があっても望まない…。）
「しまった…。海星教授のとこに忘れ物した…。取りに行ってくるから先に行っててくれ。」
そう言い残して、裕也は席を立った。
「えっ〜と…。あっ！ここだ！」
黒髪の美女がある扉の前にたった。
―コンコン
「入りたまえ」
中年男の声が答える。
「何が入りたまえよ！偉そうに！」
黒髪の美女はズカズカと部屋に入る。
「おぉ〜。来てくれたのかぁ〜」
ハンサムな顔を崩して、いっぱいの笑顔で美女を見た。
「はい、これ。」
美女は書類を手渡した。
「海星教授まだいるか？帰ってなきゃいいんだが…」
裕也は独り言を言って、教授の部屋の前に立ってノックをしようとした。
「……っ？！さっきの女？！どうしてここに？」
裕也が今朝会った黒髪美女が、海星教授の部屋にいたのだ。
「忘れないでよ！ホテルに取りに行くの恥ずかしいんだから！ジロジロ見られるし…」
美女はすこし頬を赤らめた。
は？ホテル？
教授と、どういう関係だ？
「すまんすまん。もちろん御礼はするから。何か食べに行くか？」
美女のご機嫌を取るために教授は必死だ。
「高級イタリアン。」
美女はにっこりと言いのけた。
「わかった、わかった。一緒に行こう」
美女のご機嫌がとれてほっとした様子の教授。
「あっ！服も欲しい！」
「わかった、わかった。買うから…。じゃあ、6時に待ち合わせで大丈夫か？」
「うん！」
食事に服に…。
歳も離れてるし…。
まさか…。まさかかもしれない…。
なぜか、胸のあたりがむしゃくしゃする。
理由はわからない。
ヤバイ…。
裕也は扉の前からさっと消えた。
その後すぐに、美女が部屋からでてきた。