SLOW START W-1
「…はい。…晶です。」
まさかの展開だ。偶然にも程がある。
…ありえねぇ!!おもいっきり油断してたしー
あたしは出来すぎたこの事態に何も出来ず立ち尽くしていた。
ユウキ君だと判明した洒落た彼もどうしていいか分からないようだ。
しばらく沈黙が流れる。
……………
「「…っあの!!」」
意を決して発した言葉は合わせたかのように被ってしまった。
…あ〜ぁ〜どうすんの…
さらにどうしようもない空気が漂ってきたとき、ユウキ君が立ち上がる。
あたしを真っ直ぐ見たまま近づいてくる。
「初めまして。ユウキです」
あたしの目の前に立つと爽やかに且つ照れ笑いしながら手を差し出して来た。
あたしの大好物、八重歯が光った…ように見えた。
きゅ〜ん
「…初めまして。晶です。」
手を差し出し握手をする。ほんの少し手の平に汗をかいているのは、どちらか解らない。緊張する。
ちなみに今のきゅ〜んは喉の奥が締め付けられた音だ。まぁ古いのは承知です。
「いきなりってか偶然すぎるよな〜マジびびった〜」
ユウキ君は手を握ったままその場にしゃがみ込んだ。
「ありえない。人生でこんなにまさかって思ったことないよ〜」
あたしもしゃがみ込む。
顔をあげるとユウキ君と目が合った。
思わず二人で笑ってしまった。
笑い終わるとユウキ君がベンチに座るよう促したのでそれに従って隣に腰掛ける。
「会社近かったんだね〜うちはすぐ隣だよ」
「俺の会社は道路挟んでコンビニの横だし」
「近っ!もしかしたらすれ違ったりしてたかも」
「だなぁ!さくらこの事知っててわざと紹介したのか〜?」
「ありえる!なんか一人で知ってて楽しんでそう〜」
今起こったミラクルにテンションが上がっていたのか人見知りのあたしは初めて会ったという事も忘れて話していた。
気付くと携帯が振動している。
ちょっとごめんといい携帯を開くと田山先輩から電話がきていた。
「はい、もしも〜し」
『はい、もしも〜しじゃねぇだろ。昼休み終わってっから』
あたしはハッとして腕時計を見た。
13時半だ。昼休みは13時までだが30分もオーバーしていた。