SLOW START W-3
「ふ〜い今日もおつかれさ〜ん」
「お疲れ様で〜す」
ビールを口に入れると胃の中まで染みる。
「うまいね〜いいわ〜」
いつもの事ながら、男と女が二人きりで酒を飲むというシチュエーションなのにムードもくそもない。
オッサン同士のようなその光景に笑ってしまった。
それからいつも通りに仕事の話、上司の愚痴、馬鹿な話を繰り返しながら酒を進めた。
気付くと23時を回っていた。二人ともビールとウーロン杯、その他諸々でだいぶいい気分になっていた。
「でぇ、お前は今日何であんな変だった訳〜?」
田山先輩はいきなり話の線をずらし聞いてきた。
「別に変じゃないですや〜ん」
あたしは今日あった出来事を思い出してニヤついてしまった。
「変ですや〜ん。いやらしい笑いしてる〜キモい〜」
「キモいって…実はですね…」
あたしは誰かに言いたかった。話す相手は先輩。どうせ話終わっていつもの笑い話にされる…と思ったが違った。
田山先輩はあたしの目を見て黙ってしまった。
「…なんっすか?」
「んで?運命なんて感じてそいつと付き合ったりするの?」
「ま、まだわかんないですよ!…ただそうなったらいいかなぁなんて〜」
突然の真面目な雰囲気に焦り、残っていたビールを一気に飲み干して田山先輩を見た。
相変わらずこっちを見ている。
「…出るか」
「…え」
先輩はあれだけ酔っていたのにいきなり立ち上がり上着を持ち会計に向かった。あたしもフラつきながら後を追う。
店を出た後、先輩は黙ったまましばらく歩き大通りに出た。
「送ってくわ」
「大丈夫ですよ〜」
今日遇った出来事と明日が休みという事が重なっていつもより酔っていたのは自分でも解った。
「大丈夫って割には足ふらついてる…じゃあ家で飲み直すぞ」
先輩はタクシーを捕まえてあたしを乗せ後から自分も乗った。