終(つい)の春〜サクラフブキ-2
『あの時もだったな』
「うん」
『こんなに時間がかかっちまった』
「うん」
彼はそこで言葉を止めると、私の前に手を差し出した。
『帰ろう』
あなたは言ってくれたよね。
『必ず迎えに行く』って――。
私は手を取って、バイクの後ろに跨った。
『ゆっくり帰ろうか』
「勇に任せる」
彼は返事を返さず、アクセルを開けた。
ゆっくりとバイクは動き出し、周りの景色が流れ始める。
私と彼の物語。もう、悲しいお話は登場しないだろう。
季節だけが、私達をずっと見ていた――。
ゆっくりと時は流れて……。
「さようなら」
『『さようなら!!』』
中学校。教師のその言葉を皮切りに、少年少女は春の午後に身を踊らせていった。
春の日差しが、窓から優しく教室に流れ込む。
『吉岡センセ、んじゃね』
「うん、また明日」
すれ違う生徒と挨拶を交わし階段を降りる。踊り場にさしかかった時に、窓からある光景が見える。
遠目から見てもわかる赤面した少年と少女。見た限りでは、少女が少年に告白しているようだ。
お互いに沈黙しているのが昔の自分とそっくりで少しおかしくなった。
「頑張れ、女の子」
誰にともなく一人呟き、彼女は階段を後にした。
勇と真理は恋しあった。
二人は愛し合った。
全ては、季節だけが知っていた。