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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 前編-8

 その横を、赤穂素(あこうす)とか言う若い隊員が、患者さん搬送用のストレッチャ(キャスター付き担架)を車の外へと引きずり出す。
嘉幸は突然の事に焦りながらも。
「あっ、いや、こいつじゃなくて、そのう!!」
 懸命に説明しようとするが。
「何を言ってるんだ! 早くしないと奥さん、子供が生まれてしまうぞ!!」
隊長も慌てているらしい、嘉幸の説明なんて聞いちゃいない。
 その横でもう一人の隊員と女医さんが。
「いやーん、放せー!」
 と、おお暴れする都子を無理矢理押え込んで、ストレッチャに乗せるが。
「ちょっと待って!!」
 突然、割れんばかりの大声でもって女医さんが叫んだりもする。
 その声を聞いてか、嘉幸と救急隊員はもとより、集まっていた野次馬の人達すべての行動が、一瞬にして静止すると。女医さんは持っていた聴診器を、これまた無論、驚いて手足を広げたまま、固まって動かなくなった都子のお腹に押し当てて「ふんふん……」と頷きながら、あっちこっち動かして緊急的診察を始めるのだった。
お腹の上をゴソゴソされては、さすがの都子もくすぐったくて溜まらなかっただろう。今にも大笑いしそうな顔を引きつらせながら、必死に笑いを我慢していた。
 すると。
「おかしいわ!? 赤ちゃんが居ないわ!!」
女医さんがポツリとそう呟いた。
 すると何を思ったやら、これまた突然、救急隊の隊長は嘉幸の着ている服の胸ぐらを掴み上げると。
「貴様ー! 赤ん坊はどうした! 子供をどこへやったーー!!」
 と、嘉幸の身体を前後にブンブン揺さ振りながら、怒鳴り始めるではないか。
 嘉幸は思わず。
「だっだから! 僕じゃありませんよ! 僕は無実です!!」
 訳の解らない弁解を必死になってしたりもする。
 そんな時、都子がストレッチャの上で半身を起こしながら、
「あっほらほら! 赤ちゃんが生まれそうなのはあの人だよ!!」
 と、公園の駐車場の方を指差して、叫んだのだった。
嘉幸を揺さぶっていた隊長、揺さぶられている嘉幸本人、また、赤穂巣とか言う隊員と女医さん、それに集まった野次馬全員が一斉に都子の指差した方角を見て「おおー!」と声を上げる中。見れば、気弱そうな旦那さんと清美に両脇を抱えられながら、遊歩道で苦しんでいた妊婦の奥さんが、静々と救急車の方に歩いて来るではないか。
どうやら体調も少し落ち着いたのだろう、奥さんは自力でここまでやって来た様子である。
 さすが母は強し! それを見た嘉幸もそう思っていた。
「赤穂巣! どうやら患者を取り違えたようだ! 直ぐにあの奥さんを収容するぞ!!」
「了解ッス!」
隊長は掴んでいた嘉幸を慌てて放すと、ストレッチャに呆然として乗っていた都子を放り落とし、そのストレッチャを赤穂巣隊員といっしょに慌てて引っ張り、今にも倒れそうな奥さんの元へと駆け寄って行った。
 その後を若い女医さんが白衣の裾を翻(ひるがえ)しながら、女の子走りで着いて行く。
嘉幸は、ようやく本来の目的が果たせそうだと、額の汗を拭いながら、隊員達の処置を見守るのだった。


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