特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 前編-7
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”緊急通報センター北区より通達、藤見晴市内、丘の上公園において急患発生、対象の患者は出産真時かの女性、屋外での出産の可能性あり、至急現場に急行してください ”
センターからの通達により、藤見晴市消防本部から救急救命医師を乗せた救急車が、スクランブル発進して行く。
「タカタカタ・ッタータ・タカタカタ! スクランブル、スクランブル、アンビュランス1号機、緊急発進準備! カタパルトデッキ開放、電磁レール展開。メカニッククルーはセイフティー隔壁を確認後、エアロックに待避! 繰り返すこれは訓練ではない!!」
「先生! 先生! ふざけてないでくださいよ!!」
救急車の助手席から振り返って身を乗り出し、救急隊の隊長さんが、さっきから一人ではしゃぎまくっていた救命医師の女医さん向って、少し怒ったように言った。
「あーらぁごめんなさい。まさか私が当番の時に出動が掛かるなんて思わなかったんですものぅ」
そう言って、口元に手を当てて、のん気に「オホホホーー」なんて笑っている緊急救命士の若い女医。どうやらこの女医さん、大学を出て医者になったばかりの様子で、まだまだ少女のような面影が残る若いお医者さんである。しかも学生のころ好きでよく見ていた、テレビアニメの戦闘機かモビルスーツの発進シーンを、口まねでやっていた様でもあり、なんとも緊張感に欠ける人のようである。しかもBGMまで声帯模写していたりもして、はたしてこんなんで役に立つのだろうか。
「隊長〜ぅ、もうすぐ丘の上公園に付くッス!」
運転を担当していた若い救急隊員がそう報告すると、まるでプロレスラーのような大男の隊長さん、腕を組んで
前方を見据えたまま。
「よし赤穂巣(アコース=どうやら隊員の名前らしい)公園内に突入だ! 角度を間違えるな、燃え尽きてしまうぞ!」
などと声を張り上げていた。
どうやらこちらの隊長さんもまた、幼年時期にはそうとうハマッテいたクチなのだろうか、なんだかノリノリで、指示を出すその口調もまた、なにやらマニアックだったりもする。
そんな隊長の声を聞いてか、若い女医さんも「うんうん」と首を縦にふりながら、すっごく嬉しそうだったりする。
何度も言うようだけど、果たして良いのだろうか、こんな人達に人命救助を任せておいて……
一抹の不安は残るものの、もう間もなく救急車は嘉幸達の待つ、丘の上公園に到着するだろう。
嘉幸と都子は公園の入り口ゲートの脇に立って、今か今かと救急車が来るのを、そわそわしながら待ちわびていた。
119番を通報してから、時間にしたら5〜6分っと言ったところだろうが。表通りを左折して来る救急車が見えた時には、二人ともまるで無人島に取り残されて、何年も救助を待っていた遭難者ばりに、大きく腕を振るのであった。
「隊長〜ぅ居ました! 通報してきた対象者のようっス」
隊員がそう言うと、隊長も救急車のダッシュボードに手を付いて、フロントガラスを突き破るほどの勢いで、身を乗り出すと、
「あそこだ赤穂巣! あの黒いやつだ! ずいぶん若い夫婦のようだな」
とかなんとか叫びもする。
女医さんも運転席と助手席の間から身を乗り出して、
「間違いないわ! あのおんぶされている女性がきっと患者さんよ! 急いで!!」
そう、隊長達に声を掛けていた。
どうやら救急隊の皆さん、嘉幸がおんぶしている都子を今回の救助対象と激しく誤認したらしい。
救急車を嘉幸達の前に滑り込ませ、土煙とともに急停車させると、乗っていた隊長が直ぐに車から飛び降りて、嘉幸に駆け寄って言った。
「君い、もう大丈夫だぞ! 我々が直ぐに病院に搬送する! さあ早く奥さんを……」
隊長はそう言いながら嘉幸の腕を引っ張っり。そうしているうちにも女医さんは救急車の後部ドアを全開に開けて。
「さあ早く急いでぇ〜!」
と、黄色くも声の限りに叫んでいた。