飃の啼く…第13章-5
「なんと、お言伝(ことづて)に…?」
「ふふ…『手を出すな』と、な。今度の相手には因縁がある…。」
私の顔を見て、蜘蛛の表情は少し強張る。そう。おそらく私は狂っているのだろう。あの澱みというものと関わるようになってから、私の執着は過去へと移っていった。欲しいものは手に入れる。目障りなものは消してやる。そして、さらに力を手に入れる。
「この館までおびき寄せろ。手段は問わぬ。」
そう。手段は問わない。必ずや、終止符を。
私は、傍らの壷の中を見る。
「後二匹・・・。」
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おかしいほどぴったり寄り添える身体。飃のへこんだところには、私の出っ張ったところがおさまる。飃の振動が私を震わせて、彼が笑うと、私もつられて笑う。
「それでね、よりによってその盆栽が、お爺ちゃんが一番大切にしてた奴だったの。あの時のお爺ちゃんの顔ったら…。」
飃は聞き上手だ。おまけに年上だから、私はつい甘えて、なんでもない思い出話を沢山話して聞かせる。飃はと言えば、その間逆だ。
「ねえ。」
「うん?」
飃の腕に抱かれて、彼の顔が見えない体勢のまま聞いてみる。
「聞いていい?」
我ながら、卑怯な質問の仕方だと思う。こう聞かれたら「良い」と答えるしかない。飃は、私が根気強く聞きださないと何も話してくれない。しかも、やっと話してくれたところで必要最低限の情報しかくれないから、私の中の飃の過去のイメージは常に空白だ。
「あのさ…飃がさ、毒にやられて、飃の中の『何か』が出てきちゃったとき、あったじゃない?」
そう。あのにっくき、擾とかいう澱みに操られていた少年の狗族。彼の使った鎌にはある毒が塗ってあった。それは、彼が精神の奥深くに縛り付けている獣を一時的に解き放つ毒物だった。
「ああ。」
返事が簡潔すぎて、先を続けていいのか不安になる。飃の表情にはまた、不法侵入のシグナルが出ているのだろうか。
「あれ…一体なんなのか、詳しく聞かせて欲しいの。」
飃の腕は、緩むでも、私を抱きしめるでも無くただそこにあった。沈黙が苦手な私は、あわてて言葉を継ぎ足そうとする。
「ほら、今度またああいうことがあったら、どういう風になだめたらいいのかとか、知りたいし…」
痺れを切らして、身をよじる。たとえ、視線をそらされると解っていても、飃の答えが聞きたい。話の内容よりも、話てくれるのか。その選択を知りたかった。
私の目が、飃の目とぶつかる。飃は、私がそうするのを待っていたかのように、私の目を見つめたまま、ゆっくりと話し出した。