飃の啼く…第13章-12
「飲ませろというのか?お前を…さくらに?」
心の中の疼きが、正解だと告げる。
北斗は、依然と同じ大きさ、形状のまま、その本体を波立たせ…今や北斗は、液状の盾となって横たわっていた。まるで、盾の中心にある何かが、重力によって水銀のような北斗の、形状を保っているようだ。
北斗から一掬いその液体を採って、涙を流しながら呆然とするさくらの口に流し込んだ。
「げほ…っ!っ…!」
むせて吐き戻そうとするのを、心を鬼にして無理やり飲み込ませる。口をふさいで、鼻をつまむと、しばらくもがいた後、おとなしく飲み下したごくりと言う音。
「これで…いいのか…?」
北斗は、きらりと光って答えた。
声なのか、息なのか判別するのも難しいほどだったさくらの呼吸は、次第に落ち着いた。さくらの体内に入った北斗が、彼女の身体の中の蛇を消滅せしめたのだろう。穏やかさを取り戻した彼女の寝顔に、深いため息をつく。
さくらの熱は…空が白む頃には引いていた。
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変な夢を見た。
真っ黒な蛇が私の口から中に入って、中で燃える夢。侵入された私の体はどうしようもなく熱くなって…喉は渇いて、そしてただただ、下半身のうずきだけに突き動かされるように身体を求めてさまよう…。
目の前に何があるのかも、誰が居るのかもほとんど認識できない。全神経が高ぶって、些細な刺激に、官能が悲鳴を上げる。このままでは、壊れてしまう…壊れてしまう。
そして、頭の中には、聞いたことも無い男の声がずうっと響いていた。
「死んでしまえ」
それは、精神の壁に突き刺さる幾つもの杭のように私を蝕んだ。じりじりと焼ける大気、どうしようもない欲望、そして残酷な言葉…恐怖を通り越して、私は全てを終わらせたい気持ちでいっぱいだった。
すると…私の意識の中に飃の声が響いた。「助けてやる」と。全身全霊をこめて、その声にすがった。
助けて、
私の手を離さないで。
手を離して、あの真っ暗な闇の中に落とさないで。
飃の声を追いかけてたどり着いた先にあった、輝ける泉。あたりは砂漠なのか、断崖なのか、荒野なのか…そんな区別もつかないような混沌の中、そこには確かに泉があった。
私はその泉の水を口にして…
そして、それきり衝動も、欲望も苦しみも無しに眠ってしまった。