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光の風
【ファンタジー 恋愛小説】

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光の風 〈貴未篇〉前編-13

窓の向こうは明るい日差しに照らされている、誘われるように貴未は窓辺へと向かった。カルサの部屋の窓からは大きく広がる中庭が見渡せる。

遠い記憶が戻ってきたような感覚に体をとられそうになった。貴未の胸元には〈永〉がある。手に取り見つめた、まるで〈永〉の中にいるマチェリラが心配そうにこっちを見ているように思える。

貴未は苦笑いをして悲痛の表情を浮かべた。思いが溢れすぎて目を開けてはいられなかった。気持ちを落ち着かせるためにも固く目をつむり、震えるような深呼吸をした。

ふいに気配を感じ、貴未は勢い良く振り返った。

そこに立っていたのは久しぶりに見る千羅の姿、奥にはソファに横たわっている日向がいた。

「日向!」

彼の身に何が起こったのかわからず、貴未は思わず叫び彼のもとへ向かおうとした。千羅は横に手を出し彼の行動を止める。

「眠っているだけだ。」

千羅の言葉に安心と同時に反発心も生まれた。衝動的に睨んでしまう。

「違うだろ。あんたがやったんだろうが。」

叫ぶわけでもなく、まるで刺すように貴未は千羅に向けて言った。千羅は動じる事無く受けとめた。

「そうだ、日向にはまだ早すぎる。だから眠ってもらった。」

少しずつ足を進め貴未に近付いていく。

「頼むから…あいつの前でそんな顔をしないでやってくれ。」

切ない声が部屋の中に響き渡る。予想もしない言葉に貴未は怒りを忘れ千羅に見惚れてしまった。

それと同時に思い出したことがある。カルサが封印から放たれた時、誰よりも早くカルサの下へ駆け寄り支えた姿。本当にカルサを慕っている事が誰もが感じられた。

「何を知ったか、だいたいの想像はできる。何を思っているかも分かる。」

それでも、そう言ったきり千羅は言葉に詰まってしまった。怒りが迷いに変わりそうだった、しかし手の中にある〈永〉を握り気持ちを取り戻した。

「それでも、記憶は消せない。」

貴未の目は再び真っすぐ千羅に向けられた。それは真実を求める思いの表れだった。

千羅は日向に目をやった。眠っているのを確認すると貴未を奥の部屋に促した。部屋を区切る扉を後ろ手に閉める、日向の眠りは覚めないままだった。



「何から話せばいいんだろうな。」

書斎の方の部屋を選び、千羅は貴未に背を向けたまま口にした。机にもたれ体を貴未の方へ向き直した。

「まず、何があったのか。それを教えてくれないか?」

千羅の声に答える事無く、貴未は本棚に体を預け話し始めた。この瞬間、千羅が念の為に書斎に結界をはった事を貴未は知らない。

貴未はまず、日向の故郷近くに降り立ったことから話し始めた。マチェリラを探したこと、圭のこと、貴未の長い話は始まったばかりだった。


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