光の風 〈貴未篇〉前編-11
「長、お願いします。」
貴未は不安を隠し、目的を果たす事を最優先にした。真剣な思い、間違いなく長には伝わっている。
「桂(かつら)聞こえていたか?出てきてくれ。」
長は空を仰ぎ、決して大きくはない声で空に声を放った。不思議に思いながら長を見ていると、ちょうど長と貴未の間くらいに光が現れた。
きらきら光り少し眩しいくらいだった。やがて光は鷹ほどの大きさの竜に形を整えた。
貴未も日向も思わず見惚れてしまう程の美しさだった。
「まさか…この竜が…?」
「光の精霊・桂(かつら)だ。」
光をおさめた竜は紅い瞳で貴未達を見ていた。その羽根の色に見覚えがある。
カルサが連れて帰ってきたラファルと同じ、黄金の色の羽根だった。
「今日もお体がすぐれませんね。」
セーラの言葉にリュナは苦笑いをした。
この所、シードゥルサでは洗濯日和のいい天気が続いているのに、リュナの体はベッドに縛られたままだった。
「今日もいい天気ね。」
嬉しそうにカーテン越しの外を眺める。以前に比べて食欲もなくなった所為か、少し痩せていた。
「リュナ様、紅奈様が後程…。」
「レプリカ。」
セーラの言葉を遮り、リュナは彼女の名を呼んだ。それは〈セーラ〉であり続ける必要はないのだというサインだった。
「はい。紅奈が後でお茶会をしにくると言ってましたよ。」
リュナの気持ちに応え、彼女はいつものように口調を変えた。
「本当?楽しみね!」
リュナは屈託のない笑顔を見せた。
「リュナ、入るぞ。」
ノック音の後にすぐカルサが扉を開けて顔を出した。それに気付いたセーラは少し下がって道を開ける。
「いつもありがとう、レプリカ。」
当たり前のように声をかけてリュナの横に行く。手に持っていた本を渡し、レプリカの用意した椅子に座った。
「珍しいわね、絵本?」
「掃除していたら出てきたらしい。オレが小さい時に母さんが聞かせてくれた本だ。」
本を撫でていたリュナの手が止まった。
「お母さまが?」
カルサは笑顔で頷いた。珍しいのは本だけではない、カルサが親の事を口にするのがまさにそれだった。
幼い頃に他国を訪問中に事故で亡くなった両親、カルサが彼らの話を自分から口にすることはなかった。