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ヒトナツ
【コメディ 恋愛小説】

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ヒトナツA-1

「なななななな!なにを!」
俺は慌てて顔を離す。
しかし、渚とキスしたことに変わりはなかった。
「……」
当の渚はポーッと顔を赤らめて罰の悪そうな顔をしている。
「……っ、どうし、たんだよ」
「……」
しおらしい渚を見ると、俺まで恥ずかしくなる。
「……あたし、どうしてここに帰ってきたんだと思う?」
「は?電車で言ってたじゃん。故郷が懐かしくなっただけって」
「……あたしは」
キョロキョロと辺りを見回して、小さく渚はこう口にした。
「健ちゃんに会いたくなって…健ちゃんが恋しくて帰ってきたの」
「!」

ガーン。

俺の頭の中では、たしかにこの音が鳴り響いた。
「もう!」
渚は顔を隠しながら二階に駆け上がってしまった。
走り去る後ろ姿を見ても、やはりモデルのようで綺麗だと思った。

けど。

「なんじゃこりゃあああ!」


ヒトナツ

第二話
幸せな時間


「……頂きます」
夕飯の食卓には、焼き魚にきんぴらごぼう、冷や奴などの和食が並ぶ。

三人前。

我が家の家族構成は、父、母、俺の、極めて普通の家庭。
しかし父は現在、九州への単身赴任中である。

なので今、親父の席に座っているのはパカパカとかなりのスピードで食事を平らげている渚である。

どうやら身寄りがなく、しばらく我が家に居候するらしい。
まあババアが勝手に決めたんだが。

嗚呼、俺のヒトナツのアバンチュールが……
アバンチュールって何?

「おいしいわ!おばさん!」
ババアは調子に乗って、オホホ、なんて笑ってやがる。
「アメリカに来て最初の一年で、うちの献立から和食が抹消されましたから」
「へえ」
「う、うん…」
渚が家にきて、もうすぐ半日が経過しようとしていた。
しかし、俺にはやたら素っ気無い。
こんなふうに俺がリアクションするとたじろくし。
お前からキスしたくせによ。


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