冷たい情愛4〜冷たい目〜-4
「日本橋まで」
彼は運転手に告げる。
都内の道もこの時間は空いている。
順調に進むタクシーの中…
私は何を話していいのか分からず、窓の外の景色を眺めていた。
彼はまっすぐ前を向いている。
私は彼のほうに顔を向け、彼の横顔を見た。
綺麗な横顔だった。
多少疲れは見えるが、メガネの奥の一重の目は精鋭である。
「あの…プライベートをお聞きするのも変なんですが…」
「ああ、大丈夫ですよ。どうしました?」
「遠藤さんは、○○大学のご出身なんですか?」
「そうです。片山さんからお聞きになられたんですか?」
「はい。片山と私もそこの出身なものですから…」
仕事中と同じように彼と対等に話そうとしたが…何故か私は声が小さくなる。
「ちなみに学部はどちらですか?研究室は?」
私は彼を質問攻めにしてしまった。彼はちょっと笑った。
「設楽さんが、質問好きだとは思いませんでした」
世の女性達は質問が大好きだ。
特にプライベートに関して。
それは仕事という場面では酷く邪魔になる感情だ。
よって私は、出来るだけその女性特有の感情を殺して生活している。
遠藤さんにそう取られたのが悔しい。
「そこらへんの女と一緒だな」と言われた気がしたからだ。
「ごめんなさい…」
「いえ、いいんですよ。聞かれた事にはお答えします」
酷く業務的な返答に私は少しだけ悲しくなった。
そんな会話をしているうちにタクシーは目的地付近に着いた。
彼は詳細な指示を運転手に出す。
いかにも仕事ができる男といった感じだ。
マンションの前に来た。それほど大きくはないが小綺麗な建物。
「あ、お金は私が…」
「結構です。仕事帰りですし経費で落ちますから」
彼は、どこまで行っても業務的で感情を表さない。