結界対者 第三章-16
「あのさ、間宮! いいかげんにしろよ?」
どうもじれったい、だから思わず声を大きく、間近に居ながらも思いっ切り言葉を投げつける。
「な、なによっ!」
いつもながらの、赤い双眸を丸く開く間宮が、こちらに向き直る。
「いつまでも、終わった事にクヨクヨしてんじゃねーよ!」
「別に、アタシ…… そんなんじゃ……」
「いーや、そんなんだよ、見てて強烈にウゼー!」
「そんな……」
「それにな……」
「……?」
「お前、たぶん、全然、間違って無いと思うぜ」
言い放ったその刹那、間宮がビクリと、動きを止めた気がした。
しかし次の瞬間
「うるさいわね……」
と、含む様に呟くと
「当たり前じゃない!アタシの何処が間違ってるって言うのよ!
アイツは逃げ出したの!
その後でアタシは一人で戦って来たのよ!
そりゃ…… 栞さんも助けてはくれたけど、病院のベットから動けなかったし……
って、そんな事はどうでもいいの!
とにかく、樋山の事なんか、今更、全然、何とも思っちゃいないわよっ!」
堰を切った様に、叫び出した。
かと思えば、急に向き直り
「さあ、柊っ! 店に行くわよっ!」
「え? 何でっ!」
「決まってるじゃない、何か食べさせてやるって、今朝約束したんだから、その通りにしてやるまでよっ!」
胸を張りながらニヤリと、まるで勝ち誇ったかの様に言い捨てる。
「いや…… あの……」
店には、さっき寄っちまったんだけどな。
「ほら、早くするっ!」
不意に間宮が俺の右の掌を掴み、グイッと引く。
そして、そのまま、力強く歩きだしながら
「アタシはね、どこかの誰かさんみたいに、約束は破らないの!
」
「ゲッ、昨日の事、まだ根にもってるのかよ!」
「うるさい! ほら、さっさと歩くっ!」
渋々と歩く、俺の右腕を、間宮は勢い良く引き続ける。
引かれながら思わず、浮き沈みの激しいヤツだと呆れるが、沈んだままよりは全然良いかとも思い、思いながら少しだけ笑う。
「何笑ってるのよ、気持ち悪いわね!」
「別に、なんも」
「さっさと歩きなさいよ、このアタシが奢ってやろうってんだから」
「へいへい、有難い事で」
「それと……」
「……?」
「さっきは、ありがとう…… ね」
ふと、気が付くと、夕陽はすっかりと姿を消し、街にはボンヤリと明かりが灯り初めていた。