さぁ満月だぞ!Act.3-1
午後6時10分。
夜番の同じ年の男子大学生がタラタラと話ながら来る。
またか…
来れば来たで『すんません』とニヤニヤ笑いながら私に謝る。
『あなた方が来るまで私帰れなかったんですが…まぁ別にいても居なくても一緒だから構いませんが。』
さっきまで笑っていた二人は氷つく。
そしてひとりが恐る恐る私に
『すいませんでした。あの…引き継…』
『結構です。伊藤さんに頼みますので』
言い終わる前に遮って私は言い放つとくるっと出勤5分前に来た伊藤の方に向かっていった。
『伊藤。仕事の引き継ぎ良いかな?』
『はーいっ。まっかせて下さーい!』
伊藤はアニメ声で言った。
声だけではなく仕草もアニメのキャラっぽい。
外見はバリバリ今時のCanCanに出てきそうなギャルなのに…
秋葉原に行きたまえ。
『今朝中身なし返却ディスク発見して電話したんだけど電源切れてたんだよね。悪いけど9時前までにもう一度かけて伝えてくれる?あと明日開始日のレンタル夜帰る前に出してくれる?』
中身なしの内容と名前と電話番号のメモを渡した。
結局あのあと開き直って【もしバレても違うとシラを切ればいい】と考えた。
がしかし電話は繋がらない。
とりあえずほっとして今に至る。
『ふふっ。昨日の子と同じ名前ですねー』
…伊藤…お前昨日のメモこっそり見たな…
『うるさい。だから何だ。』
『メールしてあげれば良いのにー!』
『断る。なぜ私がプライベートアドレス使ってそんな事をしなければならない。』
『妃さんいつも溜め息ばっかついて恋がしたい…って私に愚痴るじゃないですか!』
確かに恋はしたい…
したいけど…
傷付く事が怖い。
好きになり過ぎると私のエゴを相手に押し付けてしまう。
相手は私の想いの重さにおかしくなってしまう。
次第に相手も私もヒステリックになってお互いに傷付く。
何度恋をしたって私の悪い癖は直らない。
解ってる。
でも相手の事が好きで私がこんなに想ってるのにってどうしても思っちゃう。
『男の子になれるチャンスですよー!?
妃さんの事怖いって男の子達が言ってるんですから』
確かに苦手だ。
緊張してトゲトゲしい言い方になってしまう。
更に目を見て話すのが出来ないので大抵の男は【顔も見たくない程嫌われてるor怒ってる】と思う。
伊藤みたいに客以外にニコニコ出来ない。
目を見て話したら心の中全てを見られそうで怖い。