飃の啼く…第12章-1
一番好きな季節…それを問われたら、私は小一時間迷っても答えを出す自信が無い。でも、一番好きな日は?と聞かれたら…迷わず答えることが出来る。街が、人が…大切な人を思う気持ちで、最も美しく着飾るあの日…
飃は、それをごくりと飲み下して言った。真剣な面持ちだった。
「さくら…言いにくいのだが…」
私も緊張する。私に何の落ち度があったのだろう。
「この茶碗蒸し、甘いぞ…」
「だぁーかぁーらぁ!それはプリンだってば!」
がっくりと肩を落とす。何度作っても、飃にはプリンが茶碗蒸しに見えるらしい。そうは言っても最後まで食べてくれるのだが、毎回これではどうも調子が狂う。
「む…そうだった。『富輪』か…」
アクセントがおかしい。横文字は例え3文字であろうと拒否するのが彼だ。
「ってなわけでさあ…」
冬休みを3日後に控えたうちの学校の生徒たちは、期末テストの返却に一喜一憂している。とはいえ、いくらテストの点数が過去最低でも、冬休みが来るということだけでテンションが底上げされる。
にもかかわらず、茜の調子は最悪だった。
「ん〜…」
点数の話題、クリスマスの話題、冬休みの話題。最初のはともかく、いつもなら盛り上がること必須の話題にも、茜は生返事だ。
「大丈夫?調子悪いね…」
心配する私に、ひらひらと手を振って答える。
「なーんかね…最近寝ても寝ても疲れが取れなくってさ…」
「やだ、夢遊病じゃん?」
そんな冗談に、笑って返す余裕すらない。
「そうかも…」
HRが終わると、茜はふらつく足取りで一番に教室を出て行った。
…だいじょぶかな。今度、じっくり相談に乗ってあげよう。
学校は午前中で終わり、部活も無い。そして、クリスマスを3日後に控えている。となれば、今日はまっすぐ帰るというわけには行かない。
ヘッドフォンでクリスマスソングを聴きながら、赤と緑と金色に飾られた街へ。
今日は買い物だ。