飃の啼く…第12章-3
「その…指輪ならそこにしろと颪のやつが…ええ…『手羽根井』だったか?」
ほんとは少し違うけど、私はうなずいた。声を出したら、震えてしまうとわかってたから。その指輪は、金属なのにかすかに暖かいような気がした。蝋燭の光を反射しているせいで、炎が指輪の中で踊っているように見える。
「有難う、飃…!」
席を立って、飃に飛びついた。肩に顔をうずめると、暖かい手が私の背中を撫でてくれた。私は、そのまま何時間でも、何日でも、そうして抱きしめられたまますごせるような気がした。でも、
「えへ、実は私からもあるんだ、プレゼ・・・贈り物。」
クローゼットの一番奥にしまっておいた袋を取り出してくる。
「はい!」
小さな、黒い箱。そこに入っているものをみて、飃の目が細くなる。
「考えていたことは、一緒か。」
「そうみたい。」
飃の長い指に似合う、シンプルなシルバーリング。左手にきらりと光るそれを、飃は愛おしそうに撫でた。「嬉しい」も「有難う」も無い。でも、その表情だけで、私は十分だった。その表情だけで、本当に幸せな気持ちになれる。
「乾杯!」
学生の私のうちの台所にある食器の中で、一番大人っぽい華奢なグラスが音を立てる。
薄めていない…つまり、カクテル以外のお酒をストレートで飲むのは初めてだったから、はじめの一口はかなりむせた。
「まださくらには早いか。」
そう言って笑う飃を見返…いや、認めよう。意地だ。意地だけで、きっかりボトルの半分は飲み干した。
そう。
飲み干したところまでは覚えている。
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まずい。
目が据わっているではないか。
さくらは下戸ではない。そうにらんで止めずにどんどん飲ませたのがまずかった。飃は後悔し始めていた。
「つぅ〜むぅ〜じぃ〜!」
きゃははは、と、いきなり笑い出す。見ている分には面白いが、何かいやな予感が…
椅子から立ち上がると、危なっかしい足取りで飃の方に向かってくる。
「おっと!」
受け止め損ねて、ベッドの方まで行ってしまった。ぽす。と、ベッドに着地する音。そして、笑い声。
「あははぁ、つむじぃ〜、カムヒア〜ん。」
いや、これは自分の責任だ。やれやれと首を振って、台所でコップに水を注ぐ。