刃に心《第26話・宴の後に》-1
場面は変わりまして、宴会場。
全部で12個あるお膳の上には、刺身や茶碗蒸し、はたまた名前の判らぬ郷土料理まで、様々な料理が並んでいる。
「えー、皆々様。温泉はどやったでしょうか?」
コップを片手に七之丞が言った。それを楓と千夜子が殺気含有率100%の視線で睨み付ける。
「えー…少し怖い顔した方もおりますが、何はともあれ乾杯ッ!」
逃げるように、コップを高々と掲げると、疾風達も渋々ながら続いた。
《第26話・宴の後に》
◇◆◇◆◇◆◇
「楓さん、そんなに怒らなくてもいいじゃありませんか?
全てを見られたわけじゃないでしょう?」
右隣に座った朧が微笑みながら言った。
楓は未だ風呂場でのことが尾を引いているようである。
「そ、それはそうですが…」
七之丞達の企みを事前に察知した朧から身体を隠すように言われていた。
しかし、異性に肌を見られたという事実が、釈然としない気持ちを生む。
「でも…疾風さんになら見られても良かったんですよね♪」
「なっ…!?」
朧の耳打ちに楓は面白いくらいに赤面した。
「私は疾風さんになら見られても平気ですよ♪
何なら、今日の夜にでも疾風さんの部屋に行って、私の全てを見てもらおうかなぁ〜♪」
「な、何を言っておられるのですッ!」
「ふふっ♪」
「……月路先輩、また何か企んでるんですか?」
楓の叫び声と朧の意味深な含み笑いに向かい側から疾風が問い掛けた。
「別に大したことじゃありませんよ。今晩、疾風さんの所に夜這いしに行こうかなぁ、なんて考えてただけですから♪」
疾風は思わず、啜っていたお吸い物をぼふっ、と吹き出しそうになった。
「ゲホッ!ゲホッ!」
ギリギリのところで吹き出すのは免れたが、堪えたお吸い物が気管支をモロに直撃する。
「な、何、冗談を言ってるんですかッ!」
「冗談かどうかは後のお楽しみということで♪」
艶やかに朧は笑った。
普段と比べて、浴衣+湯上がり+うなじ開放というトリプルコンビネーションにり、朧の色気が30%増(当社比)。
そして、普段よりも疾風の赤面具合と3人の殺気も30%増である(これも当社比)。
「まったく…こういう冗談はやめてくださいよ」
そう言って、疾風は刺身の盛り合わせに箸を伸ばそうとした。
だが、それを隣から別の箸が強襲する。
カチン。