刃に心《第26話・宴の後に》-8
「うぅ…」
頭の上で疾風が困ったように唸る。
内心、ニヤリと笑う。
酒は本当に飲んでいるが、大人しくしていれば酔わない程度である。
七乃丞に唆され…いや、アドバイスされたことを実戦してみたが、思いの外、効果があったようだ。
───なら、次の段階に移っても…
そう考えて、千夜子はまた口を開いた。
「疾風…」
「な、何ですか?」
「…部屋まで…送って」
「………へっ?」
案の定、疾風はポカーンとしている。
しかし、今日の千夜子は一味違う。
「…我が儘、言ってごめん…。
でも、アタシ…もう少し疾風といたいの…」
瞳が潤む。頬も先程より熱を帯びているようだ。
「え、え、え…」
おろおろと疾風は視線をさ迷わせている。
(…後少し)
心の中で千夜子は呟いた。
疾風が頷きさえすれば、後はなし崩し的に…などとラブコメには少々相応しくないことを考えながら、疾風の瞳を見続ける。
「疾風…」
「わ、判り「させぬわあああああ!!」
「な!?楓?」
ふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がった楓が二人を睨み付ける。
千夜子は楓の視線から隠れるように、疾風の後ろに回った。
「…怖じ気付きましたかな、千夜子殿?」
「違うもん…今日はお淑やかにするって決めたの。小鳥遊と違って女らしくすることにしたんだもん」
「な、何をー!私が女らしくないと言いたいのですか!?」
「怖い…助けて、疾風」
「疾風を盾にするなぁー!」
酒で赤く染まった楓の顔が怒りでさらに赤くなる。
「あははは!おもしろそ〜!わたしも混ぜてぇ〜!」
そこへ完璧に出来上がった希早紀が千鳥足でやって来た。
「ちょっと飲み過ぎッスよ、希早紀先輩」
それを後ろから眞燈瑠が止めようとする。
すると希早紀はくるり、と後ろを振り返り、眞燈瑠の顔をまじまじと覗き込んだ。
「な、何ッスか?」
「…眞燈瑠ちゃんって、男の子っぽいけど、よく見れば可愛い顔してるよね」
「へっ?いきなり何を言って…ムグゥ!」
周囲がその光景に言葉を無くした。
何かを言おうとした眞燈瑠の口を希早紀が自らの唇で塞いでいる。
火花を散らし合っていた楓と千夜子さえも止まっている。
「………ムグゥウウ!?!?」
自身の身に何が起きているのかを理解し、眞燈瑠がもがく。
だが、その頭部は希早紀にガッチリとロックされていて動かない。