刃に心《第26話・宴の後に》-10
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「う〜ん、二人だけやったか」
浴衣の胸元を大きく開いた姿で七之丞が呟く。
「まあええ。ともかくロビーで煙草でも吸てこよか…およ?」
ロビーに向かう途中の廊下で刃梛枷が一人、窓の外を見上げていた。
「お嬢ちゃん。今夜はええ月でも出とるんか?」
「……月に良いも悪いもない………三日月も満月も新月も全部同じもの…」
「ハハ!言われてみれば確かにそやなァ!」
「……何の用…?」
ここでやっと刃梛枷は七之丞の方を向いた。
「用か。ん〜、強いてゆえば自分は相談せえへんのかな、て思ただけや」
「……別に必要無い…」
刃梛枷は視線を再び窓の外へと戻した。
「まあ、そうゆーことなら、こっちも無理にとは言わへんよ。でも、あの二人にはアドバイスしてもうたからなァ。自分だけせえへんのも気が引けるなァ。
と、ゆーことで、こっからはわいの勝手な助言や。聞きたなかたら聞かんでもええよ」
刃梛枷は答えない。ただ黒くなった世界を空虚な瞳で見つめている。
「答えを出すのはじっくりと考えてからにしとき」
七之丞の言葉は驚くほど静かだった。
「聡明なお嬢ちゃんならこれだけ言えば十分やろ?」
やはり刃梛枷は答えなかった。
「ほなな。ええ夢を♪まさか、夢にええも悪いも無いとはゆわへんよな?」
七之丞はそう言って刃梛枷の側を過ぎていった。
「………」
七之丞が見えなっても、刃梛枷は窓を見続けた。
黒一色の世界。
それによく似た刃梛枷の髪を夜風がふわりと撫でていった。
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「よいしょっ…と。はぁ…」
食事の間に旅館の仲居さんが敷いてくれたのであろう布団に千夜子を寝かせる。
「希早紀も、眞燈瑠も、彼方も、シイタケも、チョコ先輩も終わった…。
残りは、楓だけか…」
様々な理由により潰れた仲間たちの大半をそれぞれの部屋と運び終え、疾風が言うように今、宴会場に残っているのは楓だけ。
ぐいっと額に滲んだ汗を拭い、後少しと自らを励ます。
落ち着いた空気漂う廊下を抜けて、祭の後と化した宴会場へと戻った。