刃に心《第25話・愚者が夢見る桃源郷》-3
「疾風!風呂に行くぞ!」
バンッ、とドアが彼方によって乱暴に開かれた。
(うわ…また面倒くさいのが…)
声には出さず、表情で呟く。
「ぼけっとしてねえで、早く支度しろ!」
「元気だな…」
「当たり前だろ!女の子たちが疲れを癒すために温泉に行くって言ってたんだ!これで元気にならない奴は男じゃない!」
彼方はビシッと疾風の顔を指差した。
「おっ!そらええなァ♪」
七之丞は机の上の灰皿に煙草を押し付け、先端の火を揉み消した。
「ヨッシャ!風呂行こか♪」
そして浴衣を小脇に抱え、準備万端といった顔で言った。
疾風は溜め息を吐くと、仕方なく準備を始めるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「おー、思っていたより立派だな」
武慶が感嘆の声を上げた。
その言葉通り、目の前には有に十数人は浸かれそうな露天風呂が広がっていた。
「ほうほう、確かにたいそうご立派なものをお持ちで」
「…彼方、何処を見て言ってやがる?」
武慶は自分の足元に屈んで、腰辺りを見上げる彼方を睨み付けた。
「何処って…温泉に決まってるじゃないか♪
えっ、何?君のはそんなに凄いの?うわっ、自意識過剰!」
ぷちん。
「彼方、知ってるか?此処の温泉は飲めるらしいぞ」
武慶はガシッと彼方の頭を掴むと、そのまま湯船に押し込んだ。
「ゴボッ!?」
「そうかそうか。美味いか。いっぱい飲めよ」
「ゴボッ!ゴボボボッ!!」
「シイタケ、その辺にしておいたら?」
疾風の言葉に武慶は不承不承といった様子で手を離した。
「大丈夫か?」
念のため、彼方に尋ねてみた。
「ゲホッ!ゴボッ!は、疾風…俺はもうダメだ…月路先輩に人工呼吸されなきゃ死んじまう」
「…死ね」