高崎龍之介の悩み 〜女難〜-8
素っ裸の菜々子は、大きく伸びをする。
両親が一粒種の菜々子をほったらかして旅行に行ってしまったため、真継を部屋に泊めてしまった。
しかし、当の真継の姿が部屋にない。
そんな事も気にせず菜々子は昨夜脱いだ服を着込み、部屋を出る。
廊下には、香ばしい薫りが充満していた。
「……?……」
匂いの源を探り、菜々子はそちらへ足を向ける。
「よっ、おはようさん」
台所では真継が、朝食の準備をしていた。
テーブルの上には、二人分の朝食が用意されている。
「……」
「菜々?」
真継が不思議そうに首をかしげると、菜々子ははっとした。
「あ、おはよう……」
しどろもどろに挨拶し、菜々子は顔を洗うのも忘れて椅子に座る。
菜々子好みの加減に焼き上がったベーコンエッグにサラダ、トースターの中で焼き上がるのを待っているパン。
「ほれコーヒー。お前炊飯器の時間セット忘れてたから、ご飯出せねぇけど」
菜々子がおいしそうな朝食に目を奪われているうちに、真継が淹れたてのコーヒーをマグカップに注いで差し出した。
「ん。いい匂い」
マグカップを受け取り、立ち上る薫りを嗅いで、菜々子は顔をほころばせる。
チン
軽快な音がして、焼き上がったトーストが二枚跳ね上がった。
菜々子は一枚を手に取り、バターを塗り付ける。
コーヒーを飲んでバターが溶けるのを待ってから、菜々子はトーストにかじりついた。
サクッと焼き上がった表面にしっとりした中身、じわっと染み出すバター。
いつもと同じような朝食なのに、何故かいつもよりおいしい。
「……………………………………何?」
ふと気が付くと、向かいに座った真継がにこにこしながら自分を眺めている。
「見てる」
「……何で?」
「見てちゃ駄目か?」
「…………変なヤツ」
会話を打ち切り、菜々子は朝食に専念した。
菜々子の事を目を細めて眺めつつ、真継も食事を始める。
真継はトーストにバターとマーマレードを塗り付け、サクッとかじりついた。
ベーコンエッグにマヨネーズと胡椒で味付けをしながら、菜々子はとうとう痺れを切らす。
「だから何で見てるのよっ」
菜々子が抗議すると、真継はさらっとして言った。
「先輩と付き合うようになったら、もう見れないだろ?」
「へ?何で?」
きょとんっ、とした顔になる菜々子へ、真継は微笑みかける。
「お前さんが恋人以外の男とSEXできる体でも、俺はヤなの」
言いながら、真継はソースをかけたベーコンエッグの黄身へフォークを突き立てた。
半熟の黄身が、てろてろとだらしなく広がる。
「だから、これで最後。俺はもうお前さんの幼馴染みでも、セフレでもない」