飃の啼く…第11章-9
「はい、そこのひと?」
「あのぉー…お嬢はいったいどこに行っちまったんで?」
すると、不安げなささやきが全員に伝染した。
「氷雨は!」
私は声を張り上げる。
「自分がこの村の長としてやっていくにはあまりに力不足だと…」
そこで、きっとどこかでこっそろ様子を見ているはずの氷雨に届くように言った。
「私に助けを求めてきました。そんなこともあって、きっとみんなの前に姿を現しづらくなったんじゃないかしら。」
そのとたん「轟」と、冷たい風が吹いて、粉のような雪を舞い上げていく。
なによ、近くにいるんじゃないか。怒るくらいなら自分でやんなさいっての。
そして、その日のうちに、力自慢で戦闘要員の戦士組。手当ての仕方を心得ている看護組。見張り組や兵糧組など、いくつかのグループに組み分けをした。戦士組は、骨董品の刀や、猟銃といったものの付喪がほとんどだった。彼らは、陣形や地の利を生かした戦い方、などを飃に習っていく。私は、それ以外の全員に、澱みの特徴、弱点、行動パターンを教え込む。澱みの嫌う、まじないの類(術の心得が無い彼らにとっては、たとえ習得してもごまかし程度にしかならないかもしれないが)や、最悪の場合、逃げるときの心得などを教えていった。
「おーい!朔?」
初日から全く訓練にも参加せず、ぶすっと私を見ながら座り込んでいた彼女は、今日も木の上から高みの見物だ…業を煮やした私が木の下まで行く。
「ねえ!朔ったら!」
無言。
「練習に参加してよ!あなただってこの村を守りたいんでしょ?」
無視。
「朔!!」
「煩い!人間が大きな口を聞くな!」
むき出した牙は、紛れもない敵意の証。私は、ストレートな感情をぶつけられて、思わずひるんでしまった。
「飃様のような立派な狗族を、どうやってたぶらかしたか知らないけど、本来狗族は人間よかずっと偉いんだ!伝説の長柄使いだか何だか知らないけど、思い上がるのもいい加減にしろ!」
そして、遠くで慣れない訓練にあたふたする付喪たちを見た。紛れもない軽蔑の眼差しで。
「あんなよわっちい妖怪たちが、よってたかって訓練などしたところで意味は無いのに…弱いものはいくら集まっても弱いんだ。」
吐き捨てるように言った。