飃の啼く…第11章-6
「そりゃあ、あんたらは強いし。長がいなくちゃ村はばらばらになっちゃうだろ。」
当たり前じゃん。と、氷雨は言う。
「あなたはこの村の人じゃないの?あなたじゃ治められないの?」
私が聞くと、氷雨はハハ、と自嘲的に笑った。
「あたしが?出来ると思う?みんなにお嬢、お嬢って甘やかされてさ、母さんならともかく、何にもわかんない私に誰が着いてくるってのよ。」
「お母さんは…?」
おずおずと、私が尋ねる。
「死んだよ。馬鹿でかい澱みに一人で立ち向かってさ。」
冷たい声だった。言葉そのものをも凍りつかせるような声。そんなに悲しい目をしているのに。
氷雨は急に立ち上がった。
「そもそも、あたしこういう事、苦手なんだよね。みんなのために自分を犠牲にする、とか。冗談じゃないって感じ。油良からあんたたちの話を聞いて、じゃあ頼んじゃおっかなって思ったわけ。」
飃ががばっとひざ立ちになる。わたしは目でそれを制して、家から出て行こうとする氷雨を、言葉で追った。
「あなた、それでいいの?」
氷雨は一瞬立ち止まった。
「あんた、あたしの話聞いてなかったの?」
振り返らずに、そのまま消えていった。
「し、し、しかた、ないいい、よ」
日が暮れるにつれて、殺人的に寒くなってゆく。歯の根が合わないので、まじめな話をしていてもこの有様だ。
「だが、己たちには己たちの生活や仕事や、戦いがある。」
家の中だというのに暖房が無いので、外と大して代わらない。それでも、ここが一番家っぽかったのだ。他の家は、山火事でもあったのだろう、ほとんど火事で焼け崩れていたから。
おまけに、普通の服でこんな雪だらけの場所へ来たものだから、全てびしょ濡れに濡れて、凍ってしまいそうだ。
「ででで…でも、それじゃ、ここの人たちがかわいそそそ…」
「さくら。」
雪道をスリップする車みたいに、言葉がすべり出て止まらない私を見かねて飃が言った。
「脱げ。」
「っはいぃ?」
「その服だ。脱がねば凍死してしまうぞ。」
大丈夫…とは言えない。
「うう…。」
軽くぱりぱりという音がする服を剥ぎ取って、部屋の隅に捨てた。炎が無いから乾かせないし。
「ぅうぅぅう…。」
壊れた機械のようにうめき続ける私を見かねた飃が、足の間に私を招きいれ、身体で包んでくれた。少しは寒さが和らいだ。