飃の啼く…第11章-15
「良いわ!早くその子を放して!」
「薙刀を置け…刃を地面に突き立てろ。」
言うとおりにした。後先考えないと、怒られれば謝るしかない。本当に何も考えていなかった。氷雨が助かったということと、朔が泣かずにすむということ以外は。
「にん…げん…。」
泣き腫らした目で、私を見る朔の顔には、驚きが浮かんでいた。と、思う。よく見えなかった。黒い触手が、私をヨーヨーの様に引き寄せたから。
「これで目障りな女も!雪女も!村も全て消去できる!!」
そう喚いた澱みの腕の中で、意識の淵にいた氷雨が呟くのが聞こえた。
「裏…切った、な…」
「へへへぇ!ったりめえだぁ!このおれがこまい雑魚妖怪との約束を守ったりすると思うかぁ!?」
飃は時間を無駄にはしなかった。私の知らない言葉―旋律が無いから、狗族の言葉でもない―でまじないをかけた。
天円地方
律令九勝
吾今下筆
万鬼伏蔵
急々如律令
「縛!!」
業々と燃える火の熱気と、二酸化炭素に当てられて、朦朧とする意識の中でぼんやりと思った。やっぱり飃は頼りになる…。
動きを封じられた澱みに向かって、飃が跳躍する。私に近づいてくる…唯一固形化した腕を、断ち切ろうというのか。
「氷雨!氷雨を助けて!!」
私のかすれた怒号に、飃は反射的にしたがってくれた。良かった…氷雨は助かる。助かる…。