飃の啼く…第11章-10
「ねえ、勘違いしてるようだから言っておくわ。一つ、私は飃をたぶらかした訳じゃない。二つ、思い上がってなんか居ない。三つ…あの付喪たちは弱くなんか無いわ。弱かったとしても、皆で力を合わせてその弱さを補うことの何が悪いの?なにを突っ張ってるのか知らないけど、あんたのほうがよっぽど…!」
言い終わる前に、朔は姿を消した。
「・・・何よ・・・あいつ・・・。」
それから数日が経過し、次第に、恐怖におびえる烏合の衆だった彼らも、熱心な指導の下団結し、徐々に自信をつけていった。私は、時々九重を披露して、九重に宿る力をみんなに分けてあげたりもした。
そんな中、油良が珍しく私に話しかけてきた。私の中では密かに、「だまし討ちの油良」という異名がついている彼は、丹念に練られ飴菓子のような声色で私に言った。
「何故、おぬしにこのようなことを頼んだか、不思議に思っておるじゃろうな?」
「不思議に」とは、飃に言わせれば少々控えめな言い方だとは思うが、私はうなずいた。油良は、付喪たちに容赦なく厳しい稽古をつける飃と、おどおどしっぱなしの付喪たちに目をやった。
「付喪というものは、人に寄るが宿命じゃ…人間に打ち捨てられた哀しき魂たち。それを救えるものは、やはり人間にほかならぬ。」
「…でもどうして?狗族だって、油良さんだって十分人間みたいだけど。」
そう、何気なく呟いた私を、油良の目が貫いた。
「そう思うか?」
しまった…また、人間と神族やら妖怪やらを一括りにしてしまった…油良も朔と同じように気分を害したのだろうか。
「いや、おぬしを責めようというのではない。」
私の動揺を見抜いた油良が静かに言った。
「さくら殿…我々神族と、人間の違いとはなんだと思うかね?」
「違い…ですか?人間より強いとか?変身する?神通力とか!いや、そんなんじゃないか…。」
油良はふぉっふぉ。と笑うと、私の悩んでいる顔を楽しそうに観察してから、何処へか去った。
「違い…って、なによ。」
そして、氷雨と、朔はやっぱり姿を見せなかった。すねているんだろうか。すねたいのはこっちなのに。
痺れを切らして
「氷雨さま〜、朔さま〜!」
なんて呼んでみたけど、答えてくれない。明らかに小馬鹿にしたような響きがあったからかもしれない。だって、私だって、いきなり村長に任命されたり、あんなに言われて…にっこり笑えるほど出来た「人間」ではないのだ。
あきらめて村の衆に氷雨の母親のことを聞くと、私に対して遠慮があるのか、少し言い辛そうに打ち明けてくれた。