ICHIZU…G-4
「あれから魁正はランナーが出ても盗塁しなかったからな」
榊は我が事のように喜んだ。
「ところで監督。澤田はどうです?」
永井は榊に訊いた。自分が推薦した手前、気になっていたのだ。
そんな永井の気持ちを察してか、榊は直也や山下の事を喋る時と同様に笑みを浮かべて、
「キミが推した理由が分かったよ。最初、私は男子でもキツい練習にメゲない根性と、明るさを買ってメンバーに入れたんだが、守備はこなすし打力も有る。それに足も…」
榊の言葉に、永井は破顔しながら、
「良かった!言った手前…」
榊は永井の言葉を遮った。そして真剣な顔で、永井を見据えながら言った。
「但し、明日までだ!明後日以降、あのコを出す余裕は無い。長谷見を呼び戻して橋本をライトの控えにまわす」
ー夜ー
「姉ちゃん、あそこで三振しちゃダメだよ」
いつもの夕食の風景。いつもは佳代のお喋りで始まるのだが、その日は弟、修のダメ出しから始まった。
「三振って、アンタ見てたの?」
「だって夏休みだもん。それに藤野コーチが見とけって…」
「で、どうだったの?」
母親の加奈は修に訊いた。
すると、修は得意満面な顔で答える。
「得点のチャンスで廻ってきたのにさ。ストレート2球見逃して、最後は変化球を振らされて三振だもん」
佳代は言い返す事も出来ずに、顔を赤らめていた。
すると修は、佳代の肩をポンと叩きながら、
「まあ、勝ったから良かったじゃん。また明日、頑張ればいいよ」
「うるさい!」
佳代はそう言うと、キッチンを後にして自室に駆け込んだ。
「修!言い過ぎだよ。後で謝ってきなさい」
父親建司が諭すように修に言った。修は最初、口をへの字に曲げて不満を露にしていたが、やがて〈分かった〉というと佳代の自室へと歩いて行った。