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戦火の恋、千価の愛
【その他 恋愛小説】

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戦火の恋、千価の愛-2

「なぁ健坊」
「んー?」
「あんたゆかりさんに想いあるんとちゃう?」
思いもよらぬ言葉に咳き込んでしまった。
「図星か」
絹がつまらん、という顔でよそを向いた。
「ちゃうよ」
私はあわてて否定した。
「ちゃうことない」
絹は私の顔をのぞきこんで、黒豆のような瞳をくりくりさせる。
「ほんま、こーんな近くにべっぴんの幼馴染みがおるのに、どこみとんや」
えいっとでこぴんを私に食らわせて、絹は私を置いてかけていった。私はなぜか、絹を追いかけられなかった。

すると、ウウーッと警報が鳴り出した。
「絹!!」
気持ちを切り替え急いで絹を追いかけ、近くの防空壕に逃げ込んだ。
「助けてくれてありがと」
絹は、さっきはごめん、と謝った。
「えぇ、そんなん気にしとらん。それより……」
「お兄さん、心配やね」
ドドドドド……
外のなかなかの凄まじい音が聞こえる。
「俺、今日学校休むわ」
「わかった、そうしい」
うまくゆうとくわ、と絹は真面目な顔でうなづいた。


警報が解除されたのち、すぐに私は家へと駆けた。
「兄さん!」
家は幸いにもぼやで住んでいるが、足の悪い兄の身が思われてならない。
「健次郎、学校はどうしたんや」
母さんは裏庭から驚いたような面持ちで私に声をかけた。
「いや、兄さんが心配で休んだんや」
母さんがあきれた表情になった。
「となりの絹ちゃん家の防空壕にゆかりさんがちゃんとつれてったから無事や」
ほんまに兄さんばなれのできん子や、とつくづく呆れたというような口調で言った。
「そや。」
母さんはふと思い出したかのように家に入ったかと思うと、すぐ何かを握ってでてきた。
「これなぁ、あんたにやるわ」
みると、いかにも高価な首飾りである。
「俺はこんなんつけんぞ」
「あんたがつけるんやのぉて」
母さんは、私にその首飾りを握らせると、その手を両手で包みこんだ。
「えぇか、あんたはもうすぐお国から声がかかる。お国にそむくことはできん。だから、行く前に大切な人へこれを贈るといいわ。」
母さんは珍しく涙ぐんでいるようだ。私は何も言うことが出来ない。
「後悔せんようにな」
母さんはそう言って、再び裏庭の畑へともどっていった。
「大切な人か」
ふと絹の顔が浮かんだが、どうも違う気がした。
「健次郎さん、帰ったんですか」
兄さんを支えながら彼女は言った。急いでかけ寄り、ともに支える。
「兄さんが心配で」
「そうですか」
兄さんは、すまんなぁと私に誠意の篭った声で謝る。


「そういえば」
と、ゆかりさんが居間であらたまって言い出した。
「清太郎さんが、貴方当ての封筒をお持ちですよ」
ゆかりは、重々しい声になる。
ついに、か……
私は兄さんの部屋へと向かう。
「入るよ」
さっと戸を開閉して、兄さんの横へ座る。
「ついに、名誉あるものが届いた」
目の前に差し出される、鈴木健次郎と書かれた封筒。そっとあけると、赤色の紙が出てきた。
「ゆかりさんの言葉より、承知いたしておりました」
私は、改めて兄さんをみる。兄さんはどこか遠くをみているかのようだ。
「父が戦死した以上、私からいわねばいかんからな」
「はい」
「お国からだ…。明日迎えが来る。」
「はい」
私は知らず知らず涙していた。兄さんの目からも光るものが見える。
「気をつけてな」
「はい」
私は、しばらくその場を動くことはできなかった。いや、動きたくなかったと言ってもよい。
「母は知っていますか」
私は、やっと声をだすことができた。
「あぁ。母がこれを受け取ったから」
「そうか…」
だから私にあんなことを言ったのだと納得した。
「失礼します」
改まったまま兄さんの部屋を出る。
「荷物をまとめるように。」
私は今、あの人の笑顔を想った。


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