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戦火の恋、千価の愛
【その他 恋愛小説】

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戦火の恋、千価の愛-3

翌朝、玄関には母と義姉が見送りにでてきた。
「ほんまにここでえぇの?」
母さんが尋ねる。私はゆっくりうなづく。
と、絹がとなりの玄関から飛び出してくる。
「今聞いたんよ、お母さんから。健坊…」
涙ぐむ絹をみて、私は彼女の頭をなでる。
「元気で暮らせよ」
「あんたも元気でな」
そう言うと、うわぁーっと泣きながら絹は家へ帰っていった。
「ちゃんとご近所に見送りいらんゆうたから」
「うん」
「駅まで歩けるね」
「うん」
しばらくの沈黙があり、母さんから兄さんが私に託すという手紙をうけとった。
「ありがとう」
そう伝えて、母さんには家に入ってもらった。そうとう嫌がられたが、ゆっくり私がうなづくと、母は意味がわかったらしく、涙ながらにもどっていった。
「ゆかりさん」
「はい」
涙ぐんだ彼女に私は改まって正面を向く。

「これ、受け取ってください」
彼女の差し出す掌に、しゃらんと首飾りを置いてやる。
「まぁ、こんな高価なもの…受け取れません」
ゆかりさんはふるふると首を振る。私は彼女の両手をそっと握った。
「それは、私の母からいただいたものです」
「なら、なおさら…」
「大切な人に贈れと、渡されたものです」
彼女が驚いて顔をあげる。私は微笑む。
「後悔したくありませんでした」
彼女の涙が頬を伝う。私は静かに目を閉じた。
「お慕いしておりました」
そして握っていた手をはなす。私はそっと歩き出した。
「いってらっしゃいませ」
私はもう振り返らなかった。家がもうすっかり見えないところで、兄の手紙を開く。そこには、“強く生きろ”とだけ書いてあった。
私ははじめて家の方を振り返り、声をあげて泣いた。


それから一年。
私も不幸中の幸いで、無事帰国命令がでて帰れる事となった。と言っても、私は足に大きな怪我を負い、とても健康とはいえなかったが。
松葉杖をついて懐かしい帰途をたどる。
しかし、景色がおかしい。緑は消え失せ、赤と灰色の世界が広がる。
「もうすぐ家のはずなんだが…」
ざくっという音がした。みると、こげた人を踏んだようである。
「……?」
よく見ると、その焦げた人の手には何かにぎられている。片方には大きな手が、もう片方には…
「ゆかりさん……」
そう、私があの日渡した首飾りであった。


大阪大空襲は、たくさんのいのちを焼き尽した。


戦火が奪う千価のもの。
人はいつまでくりかえすのか。


「じいちゃん?」
「おぉ、すまん。ぼーっとしておった。そうじゃなぁ、ひとつだけ言うとな」


もう、繰り返さないでほしい。
もう、誰かがこんな虚しい思いをせずにすむように。


願わくは、
戦火なしに、千価をみつけられますように。


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