jam! 第3話 『その日、僕の世界が少し変わったこと』-1
「……おかしい。絶対に何かおかしい」
僕は歩きながらずっと呟いていた。
理由は先程二階堂さんに言われた、
『狙われてるのはリショー君。つまり囮作戦だリショー君。もちろんエサは君』
…との言葉。泣くぞ。
というかついに悪びれもなく人をエサ呼ばわりか。
…一応客だよな、僕?
「はぁ…。まさか自分が一日に二回もエサ代わりになるなんて、全く予想もしてなかった……」
…そんなことが予想される人生も嫌過ぎるが。
「それにしてもホントに来るのかな、その念魔とやらは。…来ないで欲しいな」
囮役がこんな事言うのもなんだが、怖いものは怖い。トラック、鉄骨の次は何が起きるのか。
…隕石とかだったらもうどうしようもないよなぁ。
…そんな事を考えていたせいで、『それ』に最初は全く気付かなかった。
「……え、あれ?」
一人の男がふらりと近寄って来たのだ。もちろん僕はこんな人知らない。
……いや、驚いた理由はそこではない。
今僕がいるのは灰色の世界、『死界』の中なのだ。
『死界』の中では術者が意識して外した者以外の時間は止まる……らしい。よく知らないが。
それに、何と言うか、その男は……不気味だ。
フラフラしてるし、目線が定まってないし…。
普通じゃない。絶対普通じゃない。
「……………………」
おまけに無言。
しかもユラリとナイフを取り出し……ナイフ?
いやちょっと待て!
僕の制止などお構いなしに男はナイフを構え、一瞬で加速してこちらへ向かって来る!足速っ!
神風 利将、本日二度目の死の予感。
と、その時。
僕の横を誰かが駆け抜けた。あれは……二階堂さん?それで手に持ってるアレは……さっきの黒い日本刀だ。
「……………。」
無言でナイフを振りかぶる男に対し、二階堂さんはまだ刀を抜かない。
―――ギィンッ!
男に一瞬で近づいた二階堂さんは、そのまま手にした刀で男のナイフを弾き飛ばした。
そのまま男の額に刀の柄をゴリッ、と押し当て何かを小声で唱えた。
その瞬間、男の体から黒い霧のようなものが噴き出し、男は糸が切れたように倒れた。ちなみに二階堂さん、倒れる男は無視。
「に、にに二階堂さん………?今のは一体……」
「まぁ見てろ。……来るぞ」
二階堂さんが刀を抜いた。それと同時に、黒い霧がカタチを成していく。徐々に現れたそれは、何か、黒い獣のような。