jam! 第3話 『その日、僕の世界が少し変わったこと』-2
「あ……さ、さっきの…!」
さっきの念魔だった。
赤い双眸がこちらを向く。その姿は前にテレビで見た黒豹に近いだろうか。ただし、大きさはアレより二回り程大きいが。
「出やがったな!リショー君、下がってろ!」
慌てて下がる。
ようやく落ち着いて場を見るだけの余裕が戻った。どうやら念魔も二階堂さんを敵と認識したようだ。
二階堂さんが持つ刀は、奇妙な物だった。
形は僕が常識として思い描く刀の形をしているのだが、それとの大きな違いは刀身が全て黒い事だ。普通なら白銀に煌めく刃までもが黒い。
黒い獣と、黒い刀を持った黒いスーツの男。
灰色がかった世界で、二つの黒が静かに対峙していた。
先に動いたのは、黒獣。
一気に距離を詰め、前足を振り下ろす!
バゴッ、と鈍い音を立ててアスファルトが砕ける。二階堂さんは余裕でかわした。
「っらぁッ!!」
反撃。刀を横に一閃。
黒獣はそれを跳躍してかわし、そのついでに尻尾が唸りをあげて繰り出される。二階堂さんは体を反らして避けた。
――スパンッ。
黒獣の尻尾が、二階堂さんの後ろにあった電柱を、
……斬った。スッパリと。
「……当たったらシャレになんねーな、こりゃ」
嫌な汗が頬を伝う。一撃、これ則ち死だ。
「ま、要は喰らう前に喰らわせろだ。そんじゃ、行き……ます……」
秋次の体がグラリと傾き、
「かっ!!」
そのままほとんど地面を這うような低さで、かつ疾風のごとき速さで駆ける。
――ドガッ!!
黒獣の前足の一撃を潜り抜け、一気に近づく!
「もらったぁッ!!」
そのまま振りかぶり上段から斬りかかる!
ギィンッ!!
振り下ろした一撃はしかし、刃のように鋭い尾に弾かれる。
その反動で秋次はモロに体勢を崩した。
「なッ―――!!」
再び黒獣の前足が振り下ろされる。
轟、という音。
濃い、死の匂い。
「――『絶火』(ぜっか)ッ!」
ズドンッ!!
一撃が二階堂さんに届く直前、悠梨ちゃんの放った火球が黒獣の前足に炸裂した。
思わぬ場所からの攻撃に、黒獣は足を引っ込める。
二階堂さんはその隙に距離を取った。
……火の玉を出すあたり相当人間離れしている気がするが、もう一々驚かない事にした。