jam! 第2話 『その日、僕が知ってしまった事』-3
「『死界』!」
悠梨ちゃんが言うのと同時だった。
手の先の光が弾けて、世界が灰色に染まった。いや、薄く元の色は残っているので、灰色の光に上塗りされたような感じか。
……いや、そんな事どうでもいい。
「に、二階堂さん…これって一体どうなって…!?」
「あー、面倒だから後でな。それより見ろよ、アレ」
「え…?」
指差されたのは鉄骨が落ちて来たビルの上。
そこに、黒い何かがいた。獣。黒い獣だ。赤い双眸がこちらを捉えている。
「ぇ……え……?」
「アイツがリショー君を襲ってた犯人だよ」
「犯人って…いや……」
もう何が何だか。
僕にはこの灰色の世界もあの黒い獣も理解不能だ。
ついでにこの状況で平然としているこの男も理解不能だ。
黒い獣はしばらくこちらを見ていたが、やがてどこかへ走り去った。
「秋次さん、追いますか?」
「いや、遠すぎる。それに結構強いぞ。体制を立て直した方がいい。リショー君もいるしな」
「そうですね……それに」
悠梨ちゃんはそこで一度言葉を区切ると僕の方を見て、
「説明、必要ですよね?」
僕は無言で首を縦に振るしか無かった……。
▼▼
「一体何だったんですかさっきのやつは!?」
事務所に帰って僕が発した第一声がそれだった。
「まぁ見りゃ分かっただろうけど普通の生き物じゃねーよ。念魔、だ」
「………ねん…ま?」
初めて聞く単語だ。
「念から生まれた魔物と書いて念魔。信じられないかもしれないが、まぁ幽霊みたいなもんだ」
「まぁ……実物見ちゃったし、疑う余地は無いですけど。何なんですか、念魔って?」
ふむ、と一呼吸置いて二階堂さんは話し出した。
「リショー君。『念』って漢字の『ねん』以外の読み方知ってるか?」
「はい?えー……」
……国語は苦手だ。全然分からない。
「いえ。降参です」
「『念う』と書いて『おもう』と読むんだよ。」
「おもう……ですか?」
「あぁ。一般に願いの強さ的には、『思う』→『想う』→『念う』の順だな」
初耳だ。
「深い『思い』は『想い』となり、強い想いは『念い』となる。で、こっからが重要なんだが…」
また例によって砂糖を大量に入れたコーヒーを一口啜る。
「強い感情……本当に他人には及びもつかないような強い願いは、時に実現するんだ。それがプラスの感情なら奇跡として現れる。しかしマイナスの感情の場合、それは『呪い』となって災いをもたらす」
呪い………か。