光の風 〈地球篇〉-1
「ここが日向の故郷か。」
およそ人里に近い山の中から町を見下ろし貴未は呟いた。それなりに発達してはいるが、電車よりもバスよりも車の使用率が一番高そうな広い場所。地方の町といった所だろう。
「まさかこんなに早く帰ってこれるとは思わなかったよ。」
予想外の展開に日向は苦笑いで町を見つめた。確かリュナの所に向かう際に今生の別れを済ませたはずだった。またこうして故郷の土を踏めるなんて。
「寄ってくか?」
貴未の言葉に日向は首を横に振った。
「あの時別れは済ませたし、きっとみんな混乱しちゃうから。」
笑顔で町を見下ろす。日向は日向なりの覚悟を持って町を出てカルサ達を助けてくれたのだ。貴未はそれを感じ、少し暖かい気持ちになった。
「お前強いな。」
「ううん、僕なんか全然。カルサさんを目覚めさしたら何にもやる事ないもん。今回もとりあえず呼ばれたから付いてきちゃっただけだし。」
「強いのは心だよ。」
貴未は日向の頭をぽんぽんと叩きながら言った。貴未の言った言葉の意味がよくわからず、日向はただ貴未を見ている。
「それに今回も日向の力が必要だから呼んだんだ。こっちは助かってる。」
地球は日向のいた世界、そして聖と紅奈のいた世界でもある。より正確に地球に来るには日向の持つ記憶と軌跡が必要だった。
「オレがシードゥルサに辿り着いた時、オレはまだ力が完璧じゃなかった。」
初めてカルサに出会った日、あれは事故でシードゥルサに飛ばされた日でもあった。やがて聖と紅奈もシードゥルサにやってきて、貴未が空間を自由に飛べる力を扱えるようになった時には二人の地球からの軌跡は既に消えていた。
「聖と紅奈ってどうやってシードゥルサに?」
「さぁ。気が付いたら景色が変わっていたと言ってたけど。」
答えが見つからないのは分かっていても二人は考えてしまった。やはりそれはすぐに終わったが、日向はひとつ貴未に聞きたいことがあった。
「ねぇ、何でここに来たかったの?何かある?」
日向の質問に貴未の笑顔が消える。そしてもう一度日向の故郷を見下ろし、やがて空を見上げた。何も話さない貴未に日向は聞いてはいけない事だったのかと気まずくなったが、再び日向に顔を向けた貴未は穏やかな表情だった。
「オレの故郷に帰れるかもしれない場所だから。」
思いがけない言葉に日向は何も言えなかった。貴未は自分の手を握っては開き、確かな感覚を手にしていた。