ヒメクリニッキ-5
「おはやう」
「はよぅ」
「死ぬぅ」
朝は早い。ってかこいつらの体力は無限なのかと疑いたくなる程である。
「あれ? 悟、裕太と友沢先輩は?」
「ん? あ、なんか部活だったり用事だったり」
「へぇ」
友沢先輩、用事があったのに俺に勉強を教えてくれてたのか。うぅ、やっぱり良い人だよ。祐太は……まぁいいやどうでも。
「それよりゲームしない?」
顔を洗って来た梓が、また馬鹿なことを言い出した。
「ゲームしかないんですかあなたは」
「名付けて高気圧ゲーム」
「それより腹へった」
無視することにした。
「あー、私料理出来るよー」
「洗濯板が料理出来るのか」
「材料は悠?」
「スイマセン!! ダメ!! 包丁ダメ!!」
「今度言ったらザシュッだよ。ザシュッ」
「冴利さん目が本気なんですけど」
なんとか命を取り留めた俺は、何インチか解らない大きさのテレビをつけた。
機嫌が良さそうなお姉さんが、今日も事務的にニュースを放送していた。
「今日の関東地方はぁ、局地的な雷でしょぉ。なるべく外出は避けて、落雷に備えましょぉ!」
「悟ぅ、今日雷だってよ」
「大丈夫だよ。この家に限って危険はないし」
「だよなぁ。まさか雷落ちるとかな」
暢気にテレビを見ながら俺は、笑った。
「なんで朝からトンカツ……」
「重いよ……重いよ西田さん……」
「太るじゃないかー」
テーブルにはトンカツがドッサリと軽く1キロほど置いてある。
何をどう張り切ったらこんなにトンカツが作れるのか。ていうかなんでこんなに豚肉があるのか。
「ちなみに爆弾トンカツが混じってるよ」
「トンカツを作ったことに対してコメントは無しですか」
「たっぷりホッチキスの針が入ってるトンカツと、たっぷりのカラシが塗ってあるトンカツ」
「ほぉ、まさに死ぬか、死ぬかだな。セーフないんだな」
ホッチキスだけは勘弁して貰いたい。
ていうか食物じゃないのを入れないで欲しい。
「ま、とりあえず食べてみようよ」
「食事自体がサバイバルだね」
何故、何故こんなにも二人は冷静なのだろうか? ホッチキストンカツとかカラシトンカツが解っているかのような様子だ。
予想通り、テーブルの上にはトンカツが2種類残った。刺々しいトンカツと、変な臭いがするトンカツ。
刺々しいトンカツなんて一生口にしないだろう。
「えー、とごちそうさま、かな? ぼ、僕食器洗ってくるよ」
「わ、私もまだ魔神仲間にしてないから」
そそくさと立ち去っていく梓と悟。
「え!? ちょ、待てコラァ!!」
「悠く〜〜〜〜ん」
「……はい。なんでございましょうか」
捕まった……。
「美味しいお料理、最後まで食べ切れるよね?」
「いやぁ、さ、さすがに胃もたれしてきたかなぁ……っていうか……」
「洗濯板が作った料理は食えないと」
ニヤついている冴利の顔が近づいてくる。どこか般若の面影が…。
「……いただきます」
「召し上がれ? あーん」
トンカツが俺の口に運ばれてくる。
いいか? 勘違いすんなよ。俺は楽しくラブラブお食事じゃなくて、生死を賭けてこのホッチキス食べ切らなくてはならない。
dead or aliveですよ。
「…口が痛い」
「味は」
「強いていうならば鉄…かな。鉄」
「じゃ味付けカラシトンカツドーン」
「ちょ、今それ食ったらカラシ染みて死ぬ!! 死ぬ……ぎゃああぁあぁあぁあああああ!!!!」
薄れ行く意識の中、ニヤリと笑う洗濯板……いや、冴利が見えるだけだった。
許すまじ、悟と梓め。