ICHIZU…F-1
ー翌日ー
大会2日目。青葉中学校は第3試合。対戦相手は牟田中学校だ。
「ランニングやるぞ!」
第2試合の終盤。身体を試合に備えるためのアップが始まった。キャプテンの号令の後、球場の外周を3周走る。
「ち…ちょっと…」
佳代は相変わらず長距離が苦手のようで、2周目に入った途端に遅れだした。
が、以前ほど離されずについて行く。キャプテン信也はそれを見て口元を少し微笑ませる。
「ダッシュ!」
信也の掛声で、ラスト300メートルほどをメンバー全員が全速で走る。佳代も必死について行く。
ゴールした時、ビリなのは変わりないが、差は縮まっていた。どうやら少しは成長したようだ。
「次!ストレッチ」
息をつく間も無く、2人1組になって脚と背中を中心に全身の筋肉を伸ばす。外気温はすでに30度を大幅に上回っている。選手達の身体から汗がしたたり落ちる。
ストレッチが終わると、バットの素振りが待っていた。
これも一風変わっている。球場外に設けてある金網フェンスに選手達が等間隔にズラリと並ぶと、フェンスから60センチほど離れた位置でバットを振りだした。
90センチ近くあるバットを金網に当てずに振るには、バットを身体に巻き付けるよう振る必要がある。
コンパクトでシャープな振りを身につけさせるために榊と永井で考えた末の指導法だった。
50回ほど素振りをした頃だろうか、第2試合の終了を告げるサイレンが聴こえて来た。
「練習止めーっ!道具を持ってすぐにサード・ベンチに行くぞ」
監督の榊がメガホンで皆に伝える。佳代は自分のバッグを持ちヘルメットを素早く被ると、クーラー・ボックスを抱えようとしていた。
「オマエ一人じゃムリだろ。ホラッ、片方持ってやるから」
そう言ってきたのは山下だ。佳代は〈ありがとう〉と言うと片方の取手を山下に渡す。
二人でクーラー・ボックスを持って歩く。
「そういえば!」
佳代は突然、何を思ったのか山下の尻を軽く蹴とばした。
「何すんだ!」
いきなりの事に声を荒げる山下。
「何じゃないわよ!あんた、入場行進で私に嘘ついたでしょ!」
「それが?」
山下の目は笑っていた。そのすました態度がよけいに腹立たしいのか、佳代はもう一度山下を蹴ってから、
「そのおかげで私ぁ家族全員に笑われたんだからね!特に修なんか思いっ切りバカにしてさ…」
それは昨夜の夕食の時だった。〈明日は試合だから〉という父の健司の提案で、トンカツや鶏の唐揚げ、スパゲティ・ナポリタンという佳代の好物ばかりを食卓に並べてくれた。
それを美味しく食べている時、弟の修が言った。