飃の啼く…第10章-9
「っく!」
「さくら!」
飃が七番に踊りかかる。
「飃!やめてっ!」
私の懇願に珍しく耳を貸して、飃は再び後退する。飃もまた、この狗族を傷つけたくないのだ。
容赦ない七番の攻撃は、私たちを疲弊させていく。
「ぐ!」
七番の鎌が、私の首に巻きついた。ものすごい力で引っ張られるままに、私は彼の目の前にひざを折って屈していた。
飃は、私を案じて下手に動くことが出来ず、夕雷も悔しそうにその場に立ち尽くしている。
私は顔を上げて、彼の真っ黒な目を見た。
希望というものを味わったことの無い、君の目は…なんて悲しい色をしてるの…
「なんで…」
「え?」
「なんで、ぼくをころそうとしないの?」
その一瞬の隙を突いて、夕雷の鎌が私の首に巻きついた鎖を断ち切る。
私は急いで退いたものの、その少年の言葉は私についてきた。
「七番ん〜!今のはなんだァ?次にしくじりやがったら、五番や六番見てえにぶっ殺すぞ!」
擾の残酷な叱責に、七番の身体が一瞬縮む。
「申し訳ありません…!」
そして、いままでよりさらに激しく、鎌を繰り出してくる。私達はもはや、傷つけることが出来ない七番の一方的な攻撃に対し、ただやり過ごすので精一杯だった。
その時、
「―――――――――!」
飃が声を上げる。
少年の動きが止まった。
「―――。」
不思議な言葉。他のどんな言語に当てはめることも出来ない、狗族だけが理解し、駆使することが出来る言葉だ。
少年は、魅入られたようにその言葉に聞き入る。
「なんだァ…お前ら、何をしゃべってやがる…?」
今や少年は、ゆっくりと飃のほうに歩み寄っている。鎌を握るその手には、力が入っていない。
「―――――?」
七番が、恐る恐る言葉を返す。飃はそれに、うなずいて見せた。