飃の啼く…第10章-8
「疾雷(しつらい)の…」
夕雷の目が驚きに大きく開いた。
「疾雷…!?」
「くくっ…俺の犲の、練習にな…」
そいつは楽しそうに嗤った。
「なかなかに腕のたつ鼬だったぜェ…殺るのに犲3匹無駄にしたくらいだからなァ…」
「てめぇ!」
その言葉を言い終わらないうちに、夕雷の鎌が飛んだ。
「てめえが、兄貴を!!」
少年―七番と呼ばれる少年が、迷うことなくそれに立ち向かう。
「ひゃははは!やれェ!挙句の果てに殺しちまったってかまわねえ!また捕まえてくりゃあいいんだからなァ!そしたら今度はお前の鎌を使ってやらあ!兄弟仲よくな!」
飃が奴に切りかかると、七番はすぐに戻ってくる。恐ろしい早さだ。戦うためだけに鍛えられた少年は、まだあどけなさの残る顔をゆがめることも無く私たちと対峙する。
「これじゃあ、埒が明かねえ…」
「おいおいおい…犲を相手にしただけでなァにをそんなにビビってんだぁ?ちっとは血を見してくれよ!」
けたたましい笑い声が響く。耳障りな、神経を逆なでする騒音にイラついて、一番堪忍袋の耐久性が低い夕雷が声を荒げる。
「…やってやらあ!」
夕雷の鎌が、ひときわ大きく弧を描く。遮るものさえ貫こうとする勢いに、七番は迷わずその前に出て…
「だめっ!!!」
ガキ、と、九重に当たった鎌がいやな音を立てる。
「邪魔すんじゃねえ、さくら!」
「駄目だよ!この子を傷つけられない!」
こんな傷つけあいを許すわけには行かない。この戦いで憎しみを掻き立てられては、あいつらの思う壺だ…!
「おぉ〜!優しいねェ、姉ちゃん!でも、そんなの意味無いぜェ!」
殺気を感じて、さっと身をかわす。七番の繰り出した鎌が、私の横腹を裂いた。