飃の啼く…第10章-14
その後は、解毒方も、彼らの目的も考え付かないまま、一ミリを動くことも出来ず飃の魔眼に縛り付けられていた。完全に肉食動物の純粋な本能に支配された飃は、獣のように4つの足で私に覆いかぶさった。相変わらずゆっくりと。
けだるいとさえ形容できるその動きには、一つ確かな目的があった。
鼻を突く雄の匂い。見たことの無い飃の様相の中にある、見慣れた表情…飃は完全に私に覆いかぶさり、味見をするように首筋を舐め上げた。その感覚に、私は恐怖を忘れてため息を漏らす。
次の瞬間、鋭い痛みが首筋に走った。ぷつ、と、飃の牙が私の皮膚に突き刺さっている。痛みに顔をしかめる間もなく、飃は暖かい舌でその傷跡を舐める。味わうように。
昔、誰かが言っていた言葉が脳裏をよぎった。
「食欲と性欲は通じている」と。そして、「肉食動物には、逃げるものを見ると追いたくなる本能が備わっている」とも。
ひとしきり私の血を舐めた後、彼は短いため息を漏らして、私の服に爪をかけた。伸縮自在な飃の爪にかかって、私の簡素な洋服はいとも簡単に引き裂かれる。その間も、飃の牙は、品定めするように私の身体のいたるところを甘噛みしていた。
このまま、飃が私を食べることを忘れて、身体だけで満足してくれたら良いと思った。同時に、この恐ろしい行為を、心のどこかで望んでも居た。痛みによって快感が生じるなんて、以前の私には想像もできなかったこと…でも、今は…このくらいの痛みなら、喜んで目の前のこの獣に献上できる。それで彼が、さらに深い満足に到達することができるのなら。
そうは言っても、さすがに食べられるというのはぞっとしない。それなら、食欲ではなく性欲を満たす必要がある。必要だけではなく、私自身の欲求もあるけど。
下着に飃の爪がかかり、私は一糸纏わぬ姿で飃の前にいた。恐怖することもなく。むしろ挑みかかる気迫を以って。
「飃…」
飃の顔を両手で捉え、舌を差し込む。見知らぬ獣の、あまりに馴染み深い味。飃の、いつもより鋭い牙に舌を捉えられて、血の味が広がる。それを味わいつくそうと、飃の舌が絡みつく。
「っ…は、ぁ…」
その間に、私の手は飃のズボンに伸びていた。窮屈そうに布を押し上げるそれを開放して、手の中にじかにその硬さと熱を感じると、自らの下腹部までじんと熱を帯びる。
飃の口の中から舌を引き抜くと、もっととねだるように唇に優しく噛み付かれ、舐められる。
「あ…」
口をついて出たあえぎに、わずかに開いた私の唇の隙間から、飃は再び侵入する。呼吸を奪われて、朦朧とキスを返す私の裂け目に、今日は自分で飃を誘導する。手や舌、そして腰で。
「っあ、は、ぅ…っ!」
燃え盛る飃の欲望を迎え入れた瞬間、私に残された選択肢は、一つをのぞいてみな消えた。
私に与えられたのは「ただ感じること。」
どちらがどちらをより多く満たせるか、そんなことは重要じゃない。飃が毒のせいで獣に堕ちようが、かまわない。こうなった以上私も獣とそう変わらないのだから。