飃の啼く…第10章-10
彼らは、血で語っている。誰に習うでもなく、彼らの体に太古より流れる、自然から受けた祝福の力によって。
同属以外が決して、私ですら踏み込むことの出来ない絶対領域…その瞬間、二人が立っているのはもはや戦場ではなかった。
「ちぃい〜!この役立たずめがァ!」
見かねた擾が、ピイ、と笛を鳴らす。
一瞬で、七番の目が理性を失う。そして反射的に鎌を繰り出した。
しかし…それが擾の運のつきだった。飃の腕に深く刺さった鎌。彼の腕を貫通した鎌の刃先を、飃は歯で咥えて動かないようにする。そしてそのまま鎖を手繰り寄せて七番を引き寄せた。先ほどの会話で殺気を抜かれてしまった少年一人動けないようにするのは容易かった。
地面に押さえつけられた自分のボディーガードをみて、澱みはついに自分の末路を悟ったのだろう。
「ち…くしょおぉお!」
恐ろしく冷静な夕雷の鎌が、
擾のわめき声ごと…切り裂いた。
私はためらわずに、真っ二つになった体の断面に、露になった擾の核を貫く。
死に際に、そいつは掠れた声で言った。耳を澄まさないと聞こえないほどの小さな声だったが、私にはこう聞こえた。
「犬っころ…は……七番の毒を食らった…食らったぜ…。」
ザア…
朝の光に温まり始めた大気に散らばってゆく擾の塵と共に、何かすごく小さなものが、飛び立ったような気がした。いや、飛び立った。それを教えてくれたのは、目ではなく鼻だ。そして、羽音を捕らえる耳。なんでこんなに感覚が鋭くなったんだろう。急に。
疑惑の爪に一瞬とらわれた私は、我に返って飃の元へ戻った。
「飃!」
「なに、たいした事は無い。」
止血の準備もなしに自分の腕から鎌を抜くそこに簡単な呪を掛ける。濃い血の匂いが空気を満たす。それと、不自然な匂い。鎌の油か何かだろうか。
いぶかしむ私をよそに、飃は少年に向き直った。
―自分が何者か、知りたいか?
さっき飃はそう問いかけていた。
自分の鎖鎌にがんじがらめにされて、その場にうずくまる少年の死を覚悟したその表情。いままで何人の同属の死を見てきたのだろう。見方としても、敵としても。
失敗が即、死につながる恐怖と狂気の生活で彼の心は荒み、虚ろになっていったのだ。
自分が何者か…彼にとって、それがどんなに大切な問いか…