飃の啼く…第9章-17
それでも…ベッドの上で外を見ている飃を見たり、私が触れるたびにびくびくするのを感じたり、大丈夫かとたずねるたびに「大丈夫だ、心配ない」と、落ち窪んだ目で言われる。
そして、飃は私と目を合わせてくれない。決して。
神様…どうして、飃ばかりがこんなに恐ろしい目に?もう十分です、しばらく放っておいて…私は…そう思って、お風呂で泣くのだ。声を立てないように。静かに。
その日、学校から帰ったとき、飃は「また」シャワーを浴びていた。最近、良く浴びるようになった。酷いときには、一日に5回は浴びる。そして、出てきたときには肌が真っ赤になっているのだ。どうしたらあかすりであんな風になるのかと思うほど。
私は、水音がやまない浴室のドアを、いきなりガラッと開けた。
「さく―?」
背中に残った傷跡が痛々しい。
私は、何も言わずに飃の背中を抱いた。鞭打ちによって、正常な皮膚は失われて、白い傷跡が隙間なく覆っている。でも、私が癒してあげたいのは肉体的な傷じゃない。そのもっと奥。もっと深いところにあるもの。
かかるお湯は、驚くほど熱かった。皮膚が麻痺してしまうほど熱い。
私は知ってるのよ、飃。知ってるの。あなたがどんなに苦しいのか。
……話して欲しい。
「何をいきな―」
私が後ろから、飃のものをつかんだので、飃は驚いて言葉を切った。
「さくら、よせ!」
吼えるような声が浴室を震わせる。ここで退いたら、余計に彼を傷つけるだけよ。たじろぐな、さくら。
「何を考えてる?言って!」
シャワーの滝に濡れて、私の服は水を吸い込み、重くなる。
沈黙。飃は、私の腕の中で、身じろぎもせずにためらっていた。
「己は…己は…駄目だ…言えん。」
耳を舐め、噛む。しばらく飃の身体に触れることも出来なかったから、飃の感触を味わえて、身体が喜んでいるような気がする。
「言うのよ。」
有無を言わせぬ口調で命令する。その間も、飃は私の手から逃げようともがいている。
「己は…お前に触れられない。己はあまりに穢れてしまって…」
「ここが?」
私はボディーソープを、飃にたらして、さすった。