飃の啼く…第9章-16
「お前…」
「!?」
足元に転がっている、死んだはずの男の首が言う。
首を落としても、死なない!?
―なんと言う悪夢。
「他の囚人たちは逃がした。ほら、急げ!」
戦慄し、硬直する足を叱るように前へ踏み出させた。部屋から抜け出して、走り出したときにも、あの首の嗤い声は追いかけてきた。
私は、ずいぶん軽くなってしまった北斗を持ち、風炎が飃の手を引いて連れて行った。私では制御できないほど、飃は暴れていた。その場に残って、あの悪魔に止めを刺したいと思っているのが、私には痛いほど解る。だが、そのまま残ってこの牢獄にいる澱み全員を相手にするわけにはいかない。今の私たちでは無理だ。
奴らの牢獄を出た後、飃が手を離しても大丈夫だと言い出した。走る必要があったので走らせたが、上半身は狼のままだし、足取りこそしっかりしていたが目はどこか遠くを見ていた。
帰りは、道順を気にする必要がなかったので、10分ほどでさっきのマンホールに着いた。途中、追っ手どもを九重で切り付けながら。
マンホールの上に登ると、カジマヤが心配そうな顔をして見張りをしていた。
尋常で無い飃の姿を見て、悪い予感が的中したというような落胆の声を上げた。私たちおは急いで車に―後ろの座席をつくってあったので、そこに―乗り込み、終電の時間をとっくに過ぎて、寝静まった街を後にした。
颪さんの
「場所はわかった…あと3日だって、あんなものを存在させてはおきやせん…。」
その言葉を最後に、後は誰も、なにも言わなかった。
それからの何日かは…戦いの日々だった。
飃は、時折ベッドから飛び起きて自分の身体を傷つけようとする。私が必死でやめさせて、ふと我に返ると、私の顔を見るなり青ざめた顔を布団にうずめるのだ。そして、何事かをぶつぶつ呟きながら、不安定な眠りに落ちてゆく。刃物を渡すのが怖くて、髭剃りもさせ無いので、伸び放題でまさに野獣だ。台所にも包丁の類があるので近寄らせないし、九重も常に肌身離さず持っている。そこまでする必要があると思うほど、飃の精神はぼろぼろだった。でも、これでも最初の頃に比べたらよくなったほうなのだ。顔は人間に戻ったし。食事はあまり進まないけど、それでも手をつけてくれるようにはなった。最初は粥や、スープからだ。
それから数週間して、まだトイレに駆け込んで吐いたりしても、徐々に回復していった。かみそりを渡しても大丈夫だと判断した私は、彼がその刃をじっと見つめているのを見て、危うく取り上げそうになった。