飃の啼く…第9章-15
こいつは……
こいつが、颯君を犯したんだ…
すべてのピースがはまった。
飃の村を襲い、狗族を虐殺し…
そして、今度は飃を…。
「貴様…許さない…」
「ほう?」
そいつは面白そうに言った。
「飃とそっくりな怒り方をするのだな、お前は。」
「なれなれしく、飃の名を呼ぶな…!」
「我々は、君なんぞが飃を“たぶらかす”ずっと以前からの付き合いだ。妬くのは止めてもらおうか。」
「九重!!!」
奴に向けた九重が伸びる。しかし…
「見くびらないでくれたまえ…」
そいつは軽く身をかわしてよけた。そこを引いて、九重の刃の反りで切ろうとしたが、それでもかわされる。
「くそ…!」
一度引いて、今度は身体の正面を狙う。
ずん。と、確かな手ごたえを感じた。捕らえた。と思ったのもつかの間…
「こんな…ちんけな棒では、私を倒すのは愚か、殺すなんて到底無理な話だ。」
そいつは、身体に突き刺さる九重を手に持ち、いとも簡単に抜き去ると、ひねって私の手から取り上げた。
「怒りで正常な判断が出来ないようだ。」
そして、私のほうにゆっくりと歩いてくる。私は、それでも恐怖を感じないで、怒りに身を任せて何度も向かっていった。その度に腕や脚で払われて、無様に床に転がった。奴は私の腹に足を乗せ、徐々に体重をかけていった。
「か…は…」
「飃は達したぞ。この手の中に、自身の絶頂を、迸らせてな。あのときの顔が忘れられない…お前は見たことがあるか?くくっ…すべて失ってしまったことを悟った、あの顔…」
そこで、そいつの快感に歪んだ顔が、胴体から離れた。湿った床に、ごろりと転がる。
振り返ると、見たことも無いほど伸びた、飃の鋭い爪が血を滴らせている。今まで部屋の隅でうずくまっていたはずの飃が、目を炯炯とさせて立っていた。
「うぅうぅうう……」
一目みてわかる。
―彼は我を失っている。
「もたもたするな、女!そいつを担げ、出るぞ!」
風炎が戸口に立って叫んでいた。