飃の啼く…第9章-14
「つむ…じ…?」
重い鉄の扉を開く。ぎい、と、いやな金属音。そして部屋の中は真っ暗だった。でも、深く荒い息の音がする。扉を半分まで押し開けると、かすかな光に浮かび上がって、逆立つ毛が見えた。間違いなく飃だけど…今は狼の姿をとっているの…?
とりあえず飃は確保したので、
「風炎、他の囚人たちを逃がせる?それと、盾がしまってある場所がわかる?とってきてほしいんだけど。」
この言葉を言い終わらないうちに、風炎は消えていた。正確には問いだが、風炎は答えを持ったまま消えた。
「飃…助けに来たよ、飃…?」
うなり声がする。近づいてみると、飃は血だらけだった。でも、驚くほどの出血ではない。時間を無駄に出来ないから、手当ては後でしよう。
なんだか変わった匂いがする。ムスクの匂いみたい…。
「どうしたの?つむ…!」
飃の目は、どこか虚ろだった。私を見ていない。視線を合わせようとすると、またさまよう。口は堅く閉じられたまま、銅像のように動かなかった。良く見ると、狼に変化しているのは上半身だけで、下半身は人間のままのようだ。薄汚い襤褸(ぼろ)がかぶせてある。布をめくると…
「ぁ…あ…!」
私は、涙を抑えきれずに、抱きついた。怯えた小動物のように、私の腕の中で彼の身体が大きく跳ねた。
「ああ…飃…。」
そして、飃の身体に回した手に触れたものを見て、声を上げて泣いた。鞭打たれたせいで血だらけだ。油のような薬が塗ってるものの、血が止まっていない。
さらに…さらに…
布の下は裸で、そこには、飃の中にあったと思われる、白い…行為の痕跡が……。
それに、無常にも下腹部に刻まれた、「獄」の文字。
「おやぁ、感動の再会というわけかね?」
ドアの後ろに、男が立っている。その声を聞いただけで、飃のすべての毛が、ざわ、と逆立った。
「あんたは…」
「私は獄と…あぁ、名刺をあげたいが、切らしていてね。代わりにほら、飃の腹に彫っておいた。」
九重を握り締める。
奇麗な顔、長い指、片目。
「彼の一族には世話になった。飃については、成長した分弟の時のような締まりはなかったがね。」
くっくっと嗤う。