飃の啼く…第9章-13
「そしたら、おまえが!脚の間から私の精を滴らせるのを見ながら、お前の女をも孕ませてやろうか…!」
獄の動きが激しくなる。
声を上げそうになる。声を上げるくらいなら、咽喉をつぶしてもいい。一生声などでなくていい。いや、後ろで狂ったように己の名を呼ぶこの男を殺せるなら、なんだってくれてやる。それなのに…!
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いまや私と風炎は走っていた。私は、涙で視界が曇る自分を叱り飛ばしながら、急いで風炎の後をついていく。
飃…飃…死なないで。死なないでくれるなら、何を失ったっていい。
そう、必死で祈りをささげながら。
下水の迷路に唐突に現れた扉は、何の変哲も無い鉄の扉だった。風炎が、
「狗の女を連れてきた。」
と、ドア越しに言う。走ったせいで少し汗をかいている。私は、怪しまれないように九重を風炎に渡し、鎖でつながれたまま待った。
扉が開くと、フードをかぶって顔を隠した澱みたちだらけだった。安いレインコートのような生地で、薄汚れて不潔だった。ここの環境と同じように。
早く飃を見つけなきゃという焦りを隠す必要はなかった。ただ、風炎がぐるなんだということだけは悟られてはいけない。
「放せ!!私に指一本でも触れてみろ!真っ二つにしてやる!」
私は、私を連れて行こうとする澱みに向かってわめきたてた。
風炎は、そんな私を無視して、フードたちに何事か言うと、
「こいつは私が連れてゆく。鍵をよこせ。」
そう言って、奥へと連れて行った。
フードたちの姿が見えなくなるやいなや、私たちは走り出した。
牢屋の数は(使用中のもの)は、それほど多くなかった。だが、これが全部埋まったときのことを思って、吐き気がした。
「あの扉だ!」
風炎が指差す。彼が投げてよこした鍵束を受け取り、震える手で一つずつ試していった。ええい、しっかり鍵を持って!震えちゃ駄目…!
やっと入った鍵を、なんとか置くまで差し込んで、まわす。
はやくはやくはやくはやく…