飃の啼く…第9章-12
「!?」
実際には何も聞こえない。けれど、九重は、もっている私の手が痛くなるくらい震えて…
「こっ、九重!?」
見る見るうちに、柄に施された桜の彫刻が埋まって…消えていき、刃が輝きを失ってくる。ついには…
「…っ!」
確かな音がした。確かな手ごたえが。
「九重が…欠けちゃった…。」
九重の刃から、一片、花弁のように破片がが散った。
+++++++++++
猿轡をかまされているせいで、余計に息苦しくて、意識が飛ぶ。しかし、そのたびに獄は、鞭打って避けた背中の皮膚に薬を塗りこんで目を覚まさせた。
「っ…!」
「沁みるか?」
優しい声で、獄が言う。まるで恋人に話しかけるように。
「利く薬なんだがなあ…」
そういいながら、別の場所をナイフでなぞる。皮膚の切れ目から、真っ赤な血がにじんでは、たれる。
ひざ立ちの姿勢で吊るされている飃の脚を、血と混ざった薬が伝って落ちていく。
「お前の女は、こんな姿を見てどうおもうだろうな?」
そういいながら、唐突に動く。
「…っ」
「無理をするな。感じているのはわかってるんだ、飃…」
薬でぬるぬるしている手が、飃の胸をさすったり、つめをつきたてる。この行為が愛撫に当たるのだと、飃は気づいてしまった。
また吐き気が襲う。獄の手は、飃の腹をゆっくりと下がっていった。脅すように、そして間違いなく、楽しみながら。
「なあ…本当は、女がここにいないこと、知っているんだろう?お前は鼻がいいからな。」
熱い吐息が、飃の顔にかかる。顔を背けようとする飃の、長い髪をつかんで引っ張りながら、さらに続ける。
「ところが、愚かな女は、私の部下にさっさと捕まってしまった。」
飃の意識が、さくらへと飛んだ。その瞬間を狙ったのか、獄の手が彼のものをつかむ。
「―っ!」
「ここに連れてきてやろうか。会いたいんだろ…な?」
ぎゅっと握り、緩めては優しく擦る。薬のせいで、滑らかに動く。その感覚が…
―舌を噛み切って、死んでしまいたい。
そして、それを封じるための猿轡なのだ。