飃の啼く…第9章-11
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「や…めろ…ぉ」
口の中に綿が、身体に鉛が詰まっているようだ。長くて冷たい指が、飃の身体を這い回っている。時にはつめを立てて引っかき、そうかと思えば、傷を癒そうとするこのように優しくなでる。
「二十年ぶりにあって驚いたよ。おまえ、立派な男になったじゃないか?」
もがいてももがいても、ますます身体が重くなるだけだ。鎖は重く、しかも、あらゆるあがきを封じる呪いが込められた特殊なものだ。そのせいで、飃にはほとんど身動きが取れない。うなり声を上げる力も失ってしまった。今、喉からは自分の、ぜえぜえという耳障りな息遣いが漏れるのみだ。
「本当のことを言えば、私に一太刀食らわせた小さな、かわいいお前のことが、忘れられなかったのさ…」
吐き気が。体中から吐き気がする。妙な香をたかれたせいで、体中が刺激に敏感になっている。息も絶え絶えになりながら、飃は言った。
「己は、お前を、殺すことだけ、考えていた…!」
「ほう?そのために中国まで行ったというのかね…感心だ。」
獄が手に持ったナイフが、飃のシャツを切り裂いていく。冷たい刃が、飃の胸に当てられる。
「そのくせ、可愛い弟は、おめおめ殺されてしまったというわけだな。やれやれ、殺すのが先か、死なすのが先か、優先順位を考え給え…」
獄の舌が、首筋を這う。飃の肌に鳥肌が立った。汚らわしい、汚らわしい、汚らわしい、汚らわしい………
耳元で、囁いた。
「弟に負けないくらいイイのか、ためさせてもらうぞ……」
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「まだなの!?」
その日10回目の「まだ?」を聞いて、さすがに風炎もイラついているようだ。
「この水路は、普通に進んでたどり着けるものじゃない。同じ道を何回もたどって、右折や左折の回数まで決められた通りにしないと、たどり着けない。一度でも間違えたらまたはじめからやり直しなんだ。」
だって、飃が心配なんだもん…そういいかけた時、手に持っていた九重が悲鳴を上げ始めた。